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「……っ、は、やっぱ堪んねえわ。なあ、まだアレ駄目なのか?」
「駄目だ。なんのため今まで我慢してきたと思ってるんだ?」
「……だよなぁ。ま、いいや。おい美甘、口ん中ちゃんと綺麗にしろよ。次俺のな」
「ん゛、う゛……」
もう二人が何を言ってるのかわからない。
頭が痛い。喉もまだ塊が残ってるみたいで気持ち悪くて「もおいやだ」とガスガスに掠れた声で宋都にしがみつけば、やつは「へばんの早えな」と呆れたような顔をする。
「あだま゛、痛いぃ……ッ」
「……ああ、時間切れみたいだな。じゃあ宋都、お前は自分で処理することだな」
「ハア?! くそマジかよ、今回燕斗だけじゃん」
「美甘も肩慣らしにはなっただろ? 一年以上のブランクもあるんだ、少しずつ慣れていけばいいさ」
「はいはい、自分だけ出してスッキリしたやつの言うことは違えよな」
舌打ちし、宋都は服を着直す。
そのままベッドから起き上がる宋都を目で追えば、こちらをジロリと見た宋都と視線があった。
「さん、と」
「さっさとその体質も治さねえとな」
そう言い残し、携帯取り出しながらやつは自分の部屋を出ていった。
てっきりまた怒られて叩かれるのではないかと思っていただけに、あっさり身を引いた宋都に驚いた。
燕斗から薬と水を渡され、それを受け取る。どうやら予め用意してたようだ。……というか、勝手に俺の荷物を漁ったのか。
「宋都、どこに行ったんだ……」
「さあ? あいつの呼び出しに応えてくれる子は多いからな」
「ああ……」
なるほど、と思うと同時になんだかよくわからない気分になる。鈍い頭痛が正常な思考の妨げをしているのかもしれない。
だるい体を動かし、口を濯いで薬だけ飲んだ。
その間燕斗は俺の隣にいた。
「頭痛は?」
「まだ痛い……ってか、なに、お前……」
「ん? なにってなにが?」
「ふ、普通に心配してんじゃねえよ……お前、自分がなにやったのか……」
「なにって、なに? いつも通りだろ?」
「……」
こいつに普通に会話を試みようとした俺の方が馬鹿だった。
あっけらかんと答える燕斗に、重い鈍い頭痛は広がっていく。
「い、いつも通りじゃない……こんなの、おかしいだろ」
「おかしいってなにが」
「お、俺……俺たち、もう高校生だし、てか、なんで俺なんだよ。宋都だって、お前だって、女の一人や二人くらいいるんだろ、どうせ」
頭痛が収まってくると、今度は理不尽な二人に対する怒りがこみ上げてきた。
負けると分かっててもここで立ち向かわなければきっとまた二度目がある。またあの日のような悪夢を繰り返したくなかった。
「女の一人や二人って……女の子に対してそんな言い方をするもんじゃないよ、美甘」
「はぐらかすなよ……っ」
「当ててやろうか、美甘。お前、他の女の子たちと同じように扱われるのが嫌なんだろ?」
「……は?」
ドヤ顔であまりにも筋違いなことを言い出すので、思わずアホみたいな声が出てしまった。
何を言ってるんだこいつは。本当に。
「そんなわけないだろ、俺は……っ」
「名前もないあやふやな関係でただされるがままに流され、他の女の子代替品として扱われるのが嫌だ」
「……っ、違う」
「それじゃあ、俺と付き合ってよ」
飲みかけていた水を吹き出しそうになる。いや、少し出た。
俺は濡れた口元を拭い、目の前で微笑む男を睨んだ。
「………………なんだって?」
「俺と付き合おう、美甘。そう言ったんだよ」
人にレイプのような真似をし、喉を性器扱いし、精液を全部飲ませた挙げ句にこの男はこんなことを言い出すのだ。
今まで一度足りとも俺に優しくしたことがあったか?甘い言葉を投げかけてきたことがあったか?
否、感情の籠もっていないその場のノリの軽口があるかないかくらいだ。
「冗談じゃない、お前なんかと誰が……ッ」
「ははっ、本当に美甘は下手くそだな」
「おい、何笑って……」
るんだよ、と言いかけたときだった。
伸びてきた手に顎を掴まれ、息を飲む。
「……ここで俺に媚を売っておかないと、このまま無理やり犯されるとは思わなかった?」
食い込む指先。こちらを覗き込むやつはいつもと変わらず屡々王子様と称される笑みを浮かべているが、その目は1ミリも笑っていない。
吐息が吹きかかるほどの至近距離に息が止まりそうになった。
「……お、かす……って……」
「お前はなんで自分が抱かれないかわかってないんだろ。俺たちなりの温情だと思ったか?」
「え……」
「違うに決まってんだろ。――なあ、美甘」
前髪の下、燕斗は冷ややかに微笑んだ。
まるで獲物を見つけた蛇のように、静かに目を細める。
「俺たちは待ってんだよ、お前が自覚するのを」
「ど、ういう……意味だよ……」
「そこまで教えてやったらつまらないだろ。……まあ、お前があまりにも鈍いからヒントはくれてやったけど」
その言葉に、先程の燕斗の告白のような横暴な発言を思い出す。
まさか、と考えたくもなかった。どう考えても本気ではないと思えたからだ。
またこいつの、こいつらの悪趣味な遊びなのだと思ったから。
「これ以上言ったら、おバカな美甘は知恵熱出してしまいそうだからな。流石に俺もそこまで非人道的じゃない。今は休んだらいい」
「こ、こんなことされて休めるやつがいるかよ……っ」
「眠れるよ、お前は。なんたって、さっきまですやすや眠れたんだからね」
「……は……」
適当なことを言いやがって、と燕斗を見たときだった。ずん、と急激に頭に登ってくる睡魔。
こいつ、何か盛ったのか。先程差し出された水の入ったグラスを一瞥したとき、視線を戻す暇もなく瞼が閉じようとするのだ。
「おやすみ、美甘。また明日から仲良くしような」
――昔みたいに。
暗くなった意識の底。遠くから聞こえる燕斗の声は不気味なほどに優しく、静かに落ちていった。
そして俺はとうとう意識を手放した。
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