prologue

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 俺にとってあの部屋は――慈光(じこう)家の子供部屋は悪夢のような場所だった。  勿論楽しい思い出もある。それでも、あまり思い出したくもない思い出の方が多かった。 「美甘(みかも)、なにやってんだ? 言ったよな、俺らから逃げたら負けだって」 「罰ゲームだよ、美甘。ほら、うつ伏せになって」  左右から聞こえてくる二人の声に背筋が凍り付く。  まだ幼い頃は俺たちの身長差と呼べるものはなかったはずだったのに、気付けば追い抜かれていた。学校でも背丈のある二人に左右で挟まれれば萎縮してしまうのも無理もない。  元より逃げるな、という方が無理なのだ。だってこいつらは。 「い、いやだ……っ、こんなのおかしいよ、俺たち友達なのに……っ!」  ただの冗談、ただの悪ふざけ。  それで片付けるには俺達は子供ではなくなっていた。それなのに、この二人はお互い瓜二つな顔を見合わせて笑うのだ。 「っは、はは! 友達……友達なあ? だってよ、燕斗(えんと)」 「笑うなよ宋都(さんと)。……美甘、俺たちも美甘のことが大好きなんだ。こうやって遊べるのもいつまで続くかわからないしな」 「そーそー、そゆことそゆこと」  ガキ大将を体現化したような男が宋都で、同級生たちに比べて大人びているのが燕斗。  一卵性双生児である二人の顔の造形や声は鏡写しようだが、性格や好み、喋り方は正反対だ。けれども、根底にあるものは同じである。  ――最悪に、性格が悪かった。 「んじゃ、さっさと脱げよ」  美甘、と宋都に肩を抱かれる。活発で日頃校庭や体育館を走り回って遊んでる宋都に対し、俺はというと教室の隅っこで一人で読書する方が好きな人間だ。そんな俺が宋都に力で敵うはずなどなかった。  逃げようとすれば「駄目だよ、美甘」と燕斗に腕を掴まれ、捻りあげられる。カーペットの上、痛みを和らげようと堪らず這いずるような体勢になったのを見て、宋都はそのまま俺の上に馬乗りになって身につけていた衣類を剥ぎ取るのだ。 「っ、い、嫌だっ、宋都……ッ! やめてってば……!」 「お前がちゃんと言うことを聞かないからだろ。相変わらずだせえパンツ履いてんだな」 「み、見ないで……っ!」  必死に隠そうとするが、宋都に両手首を掴まれそのまま頭上で交差するように捉えられる。鍛えていない貧相な体を二人に見られることが恥ずかしかったし、こんなことをして何が楽しいのかも分からなかった。 「い、嫌だ……っ、宋都、燕斗……ッ」 「美甘、ごめんね。けど負けたお前が悪いよ」 「なあ? 罰ゲームは絶対だよな」  笑い合う二人の視線が自分の体に向けられるのが分かり、全身が泡立った。  罰ゲーム、なんてただの横暴だ。最初はお互い笑い合って終わるレベルの軽いものだったのに、明らかにそれがエスカレートしていってることを俺でも流石に分かった。  それに、頭がよくて要領もいい二人相手だ。いつだって負けるのは俺で、罰ゲームを受けるのも俺。 「も、やめようよ、こんなの……ッ」 「負けたやつが何言ってんだよ。ほら、お前だって乳首立ってんじゃん」 「っ、ん、ぅ……ッ!」  隠すこともできないまま、ぷっくりと尖った乳首を宋都に摘まれ息を飲む。  二人に悪戯に触られるようになってから以前よりも明らかに腫れぼったくなっていることが自分でも分かった。 「っは、う……ッ、や、だ……そこ……ッ」 「美甘、胸弱いよね。ビクビクして可愛いな」 「え、燕斗……っ、助けて……ッ」 「駄目だよ美甘、今日の一番は宋都だからね。俺もこいつには逆らえないんだ」  燕斗は悪びれもなく笑い、そのまま慰めるように俺の手を握り締めてくるのだ。 「とかいいながら、いつも順位関係なく割り込んでくるくせにな」 「逆らえないけど、割り込むなとも言われてないからね。それに、宋都は優しいから許してくれるだろ?」 「まあな」  ここだけ見ていたら仲睦まじい双子なのだろうが、俺からしてみれば冗談ではない。  伸びてきた手に胸を揉まれ、腿を撫でられる。  運動でも勉強でもゲームでもなんでもだ、三人の中で一番弱かったやつは罰ゲーム。そんな遊びを最初にしたのはいつだっただろう、最初は荷物持ちなどそんなものだったのに、気付けば二人に性的な意図を持って体を触れられることが多くなった。  今回の罰ゲームは股で挟める、ということだった。宋都がいうには素股、というらしい。  俺と違い、二人は性でも早熟だった。女の子にも当たり前のようにモテてたし、女の子にすら話しかけられない俺を笑っていた。 「美甘、腿締めろよ」 「っ、う、うう、やだ……っ、これ……」  両方の腿を掴み、くっつけたその間に性器を挟める宋都。宋都が動くたびに脚の間でにゅるにゅるとぬめった肉の感触がして気持ち悪かった。 「てか、美甘細すぎ。骨じゃん。かってえし、全然気持ちくねえわこれ」  泣きそうになる俺を前に、宋都は腰を動かしながらそんな勝手なことを言い出すのだ。 「っそ、そんなこと言うんだったら……」  やめてよ、と言い終わるよりも先に、下着を捲られ、そのまま開かれた腿の奥、お尻の穴に宋都の指が触れてぎょっとする。  そのままぐに、と閉じたそこを親指で広げられそうになり、息を飲んだ。 「っ、さ、さんと……ッ?!」 「じゃあ、こっち使っていい?」 「だ、……ッ」 「宋都」  駄目に決まってるだろ、と答えるよりも先に燕斗が口を挟むほうが早かった。  燕斗は珍しく怖い顔をしていた。一言で燕斗が言わんとしていたことに気付いたようだ、宋都は「はいはい」と笑って俺の下腹部から手を離す。  そして腿の間から性器を引き抜き、そのまま膝立ちになり、俺の顔の前へと性器を突きつけるのだ。  目の前、鼻先に押し付けられる宋都の性器にぎょっとするのも束の間、宋都は俺の鼻の頭を摘む。 「んじゃ、仕方ねーからいつも通り口でやれよ。美甘」  また、結局この流れなのだ。  このときの俺はもう、逃げることを諦めていた。二人から逃げ出そうとすればもっと酷いことをされるかもしれない。そんな恐怖が染み付いていたのだ。  言われるがまま、俺は目の前の宋都の性器に口付けた。  いつまでこんな関係が続くのだろうか。二人に玩具にされ続けるような関係が。  そう思っていたが、案外その終わりはあっさりと訪れることとなる。
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