prologue

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「……っ、いってぇ……」  頭がずきずきと痛み、頭痛とともに朝を迎える。  なんだか酷く懐かしい夢を見た。それも、あまりよくない夢だ。  起き抜け、ベッド横のサイドボードに用意していた温いミネラルウォーターと常備薬を手に取り、喉奥へと流し込んだ。暫くそのままの体制でいると、ようやくその頭痛も収まっていく。  美甘遠(みかもとおい)、十六歳。  春を迎え、俺は高校二年に上がった。  幼い頃からあまり体は強い方ではなかったが、今ではなんとか人並みには動けるようになっていた。  それにしても、あいつらの夢を見るなんて。  ――慈光宋都、慈光燕斗。  保育園と小中が同じという理由で人生の半分以上を一緒に過ごしてきたといっては過言でもない、所謂幼馴染であったが、もうここ暫く二人とは会っていない。というのも高校が別々の高校に通うことになったのが大きいだろう。あいつらは電車通学で、俺は徒歩通学。まず朝は会わないし、夜も俺も俺で避けてきた。  学校が違うというだけでも結構大きい。ようやくあの双子から逃れることができた俺は伸び伸びと過ごすことが出来ていた。高校に上がった途端『なんかあの双子といつも一緒にいるから絡みづらかったんだよな』と話しかけてきた元同級生たちと仲良くすることもできたお陰で毎日は充実してるし、あの二人にマウント取られ続けて鬱屈していた性格も一年も経てばなんとか改善されてくる。  あいつらといること自体デバフのようなものだったのではないかとも今なら思える。それでも、風の噂ではやっぱりあの双子は目立っていたし、俺がいなくとも注目を受け続けてるのだと思うとなんだか妙な心地だった。  けれど、もう今の俺はあいつらとは無関係だ。そう、自由なのだ。あんないじめっ子どものことは忘れよう。そう喝を入れ、俺は一階のリビングへと降りる。  リビングでは朝食を用意した母と、仕事前の父がいた。いつもの日常、いつもの風景。ああ、これでいい。これがいいのだ、と噛み締め浸ってると「ああ、遠。丁度いいところに」と母に声を掛けられた。 「……え、なに?」 「父さんと母さん、明日から旅行でいないから。一週間くらい」 「ふーん……って、一週間?」  長くないか?と思ったが、一週間親に早く寝なさいだとか言われずに夜ふかしし放題だと考えると悪くはない。 「けど、あんたは学校もあるでしょ。だから、一週間慈光さんに面倒見てもらうようにお願いしてるから」 「うん、別に一人でも平気……って、え?」  今、なんて言った? 「一人にしたら夜ふかしするでしょあんた、駄目に決まってるでしょ。ほら、慈光さんって……小中一緒だったじゃない。宋都君と燕斗君のとこ。旅行のこと行ったら一週間あんたの面倒も見てくれるっていうからお願いしたのよ。それに、あの子たちとも長らく会ってないでしょ、良かったじゃない」  人が思考停止してる間に母のマシンガントークは続く。畳み掛けてくる衝撃的な内容に頭の奥がガンガンと痛みだした。 「い……ッ、いや、いい、てか高校生にもなったんだから一人でも別に平気だし……」 「何言ってんの、もしなにかがあったらどうするのよ」 「そうだぞ、母さんの言うことは聞いておけ」  ようやく口開いたと思えば母に加勢し出す父親に俺は頭を抱えた。 「……わ、分かったよ」  本当は1ミリも頷きたくもないが、これ以上の会話は平行線だと分かっていた。とりあえずここは大人しくしておこう。  行かなければいいのだ。そしておばさんになんか言われたら『忘れていた』と惚ければいい。  そう軽い気持ちで俺はその場を流した。今思えばそれが悪手だったことがよくわかる。  あのとき、慈光家は嫌だと強く言っておけば良かったのだ。
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