昔虐めてきた性悪双子と一週間ひとつ屋根の下で生活する羽目になった。一日目。

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 門を通り抜け、慈光家の敷地に足を踏み入れる。  オバサンの趣味である可愛らしい置物が置かれた庭先を抜け、やってきたのは玄関前。 「懐かし……」 「ほら、美甘こっち」  燕斗に腕を掴まれたまま、俺はその後ろについていく。  他人の家にはその家特有の匂いがあるというが、慈光家の場合は甘くて優しい香りだろう。  寧ろいい匂いのはずなのに、頭痛は増していく。具合が悪くなっていくのはこの家の雰囲気だけではない、こいつが一緒にいるからだと分かっていた。  ……一週間か。  我慢しなければならないというのに、いくらこいつらが更生していたとしてもなかなか気が重い。  腹を括って、俺は二人に招かれるまま慈光家内に足を踏み入れた。  ――慈光家、リビングルーム。 「あら〜! いらっしゃい、遠君。見ないうちに大きくなったわね」 「あ、オバサン……お世話になります」 「いいのよ、そんなに畏まらなくても。自分ちと思って寛いでね。なんなら好きなだけいてくれてもいいんだから」 「あ、あはは……」  冗談じゃない。オバサンには悪いけど、流石にそれは嫌だ。  二人に挟まれた俺を見て、オバサンはずっとニコニコしていた。  昔からこの人は俺に優しくしてくれた。子供の頃から擦れていた息子たちよりも、その間で縮こまっている俺の方が可愛い……らしい。  そのお陰でたくさんお菓子ももらったが、正直この二人のクセの強さはオバサンから来てるような気もしないでもない。  そしてうちの母親とそう歳も変わらないはずなのに、一向に歳を取らないのも謎で少し怖い。  オバサンに捕まり、どうしたものかとしてるといきなり宋都に肩をがしっと抱かれる。 「そうそう、美甘がずっと居てくれんなら俺も結構嬉しいかも」 「な、なんだよ急に……」 「ん〜? 正直な気持ちだっての、なに照れてんだよ」 「て、照れてないし……」  離せよ、とやんわり宋都の腕の中から逃れる。 「ゆっくりしていってね」というオバサンの言葉に甘え、取り敢えず頭痛が収まるまでソファーで休ませてもらおうかと腰を掛ければ、その右隣に燕斗が腰をかけてくる。  太もも同士がぴたりとくっつきそうなほどの距離に、もう少し離れろよと思いながらも足を閉じれば「美甘」と名前を呼ばれぎくりとした。 「な、なに……」 「本当に母さんは美甘のこと気に入ってるね」 「……お前たちが悪さばかりしてるからじゃないか?」 「おいおい、俺らは良い子だろ? なあ、燕斗」  言いながら、左隣にどかりと腰を掛けてくる宋都。  こいつに至っては足を閉じるという気遣いすら見えない。  というかなんで空いてる向かい側のソファーに座らないのだ。  ただでさえ狭いのだからデカい二人は向こうにいってくれ。  ……なんて、口が避けても言えないが。 「美甘、そう言えば頭痛はまだ酷いの?」 「……まあ、少し」 「あら、美甘君体調悪いの? 大変、薬はあるの?」 「あ、はい……いつものことなんで。一応常備薬持ってきてます」 「そう……ご飯は大丈夫そう? 無理そうだったら後からまたお腹に優しいもの用意するわよ」 「す、すみません……その……」  頭の奥、頭痛は広がっていく。  正直、この状態で食べてもまともに味わうことはできないだろう。  それが分かったからこそ、躊躇った。  そんな俺の顔をじっと覗き込んでいた燕斗は「母さん、美甘のご飯は後でもらうよ」と代わりに答えるのだ。  そして、そのまま俺の手を掴んだまま立ち上がる。 「美甘具合が悪いみたいだから俺、先にこいつ部屋で休ませてくるよ」 「え、あ……おい……燕斗……っ」  半ば強引に立たされ、驚く俺。  それを見ていた宋都は「……あー、はいはい。了解〜」とにやにや笑いながら背もたれに背中を預ける。  対するオバサンは心配顔で。 「あら、大丈夫なの?」 「大丈夫だよ。……そういうことだから、美甘。俺たちの部屋に行こっか」  ……気を遣ってくれてるのだろうか。  昔から燕斗は周りによく気付くやつだった。  そんなところがまたいいらしく、余計女子にキャーキャー言われていたのをよく覚えている。  あのときの俺は『そいつのそれは猫被りだぞ』ってずっと言ってやりたくて堪らなかった。  が、今目の前にいる燕斗はどうだろうか。  あのとき女子相手にしていたときのように肩のラインを撫でられるとぞわりと背筋が震えた。 「歩ける?」と耳元で尋ねられ「大丈夫だ」とだけ応えたが、燕斗は俺の身体から手を離すことはなかった。  落ち着かないし、不快ではあるが――それよりも休みたかった俺は燕斗の気遣いに素直に甘えることにした。
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