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燕斗に連れられて上がってきた慈光家二階。
三階建てのこの家の二階には双子の部屋があり、昔から二人はそれぞれの部屋を持っていた。
基本三人で遊ぶときは遊び部屋なる部屋があり、その共有スペースで遊んでいたのだが……。
「ここ、全然変わってないな……」
「そりゃあね。美甘が来なくなったって言ってもまだ二年も経ってないし」
「……」
「じゃあ、俺の部屋の場所覚えてる?」
二階に上がり、きょろきょろと辺りを見渡していた俺に燕斗は尋ねてくる。
目の前の遊び部屋だった扉を挟んで右隣の扉、確かそこが燕斗の部屋だ。
「……こっち」
燕斗は「正解」と笑い、右手の扉を開く、
そして「こっちだよ」と俺を引き摺って歩いていくのだ。
記憶云々以前に、宋都の部屋は一見しただけでもすぐ分かるのだ。
扉からして何故かボロボロで汚いし。部屋の中もお察しだし。
遊び部屋だった部屋は今二人の書斎になっているという。
燕斗はともかく、宋都と書斎が結びつかなかったがどうせ漫画ばかり並べているのだろう。二人で使うものとかはいちいちお互いの部屋に行き来するのが面倒だから置いていっているだとか。
俺にはやはり金持ちの感覚はあまりわからないが、俺の部屋よりも大きなスペースをそんなよくわからない使い方をするのだからやはり金持ちだな、なんてぼんやり考えた。
――燕斗の部屋。
「……相変わらず、なにもない部屋だな」
「そう? でも、汚い部屋よりかはましだろ?」
宋都にも言ってやれ、それ。
ベッドの上、腰を掛けた燕斗は自分の隣をぽんぽんと軽く叩く。
「ほら、美甘。おいで」
まるで犬や猫のように呼びやがる。
俺が昔みたいに喜んでいくと思っているのだ。
当たり前のように呼ばれるとなんだか癪で、「俺、床に座るからいい」と断れば「美甘」と先程よりも低い声で呼んでくるのだ。
「っ、燕斗……」
くそ、と心の中で毒づきながら俺は渋々燕斗の座るベッドへ――やや燕斗から離れた箇所に腰を下ろす。
軋むスプリング。ベッドの端に座る俺に、燕斗は怒るどころかふ、と笑うのだ。
そして更にやつは距離を詰めてくる。
また腿が当たりそうな距離まで詰められ、避けようとするがこれ以上はベッドから落ちてしまう。
そう硬直したとき、伸びてきた指に首筋を触れられぎょっとした。
「な……ッ!!」
「体温も上がってきてるみたいだ。……もしかしたら風邪っぽいのかな?」
無遠慮も無遠慮。首筋から項まで、細い指が皮膚の表面を撫でていく。
全身が泡立ち、「急に触るな」と慌ててやんわり離そうとするが燕斗のやつの指は離れない。
それどころか。
「……ああ、また熱くなってきたね」
こいつ、わざとか?
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