昔虐めてきた性悪双子と一週間ひとつ屋根の下で生活する羽目になった。一日目。

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「っ、ん……だ、大丈夫……だって言って……」 「俺には見えないけど」 「……ッ、ん……!」  冷たい指先が耳朶に触れ、思わず肩を竦める。  自然と距離が近付き、鼻先へと迫る燕斗の顔に、じっと向けられたその目に俺は息が詰まるような感覚に陥る。 「え、燕斗……っ、近い……」 「そうかな。俺達、いつもこれくらいだっただろ」 「そ、かもだけど……」 「それとも、たかが一年で俺との距離忘れたわけじゃないだろ」  何度も忘れようとはした。  なんて言ったら燕斗はどんな顔をするだろうか。  いや、こいつのことだ。いつも通り涼しい顔をして「じゃあまた覚えればいい」とか抜かすのだろう。 「……っ、えん、と……ッ」  別に服を脱がされてるわけでも、恥ずかしいことをされているはずでもないはずだ。  それなのに、その細く整った指先で耳朶から耳の凹凸をすっと撫でられると、それだけで背筋がびりびりと痺れ始めるのだ。  そんな俺を見て、燕斗は「益々熱くなったね」と微笑むのだ。熱を持ち始めていた頬を撫で。 「燕斗……っ、……」 「美甘、薬は?」  指摘され、はっとする。  俺は慌てて上着のポケットを探れば、そこにはいつも突っ込んでいた頭痛薬が入っていた。 「ちゃんと持ち歩いてるんだ、偉いね」なんて心の籠もってない褒め言葉を口にしながら、燕斗はベッドの側、取り付けられていたドリンク用の冷蔵庫から水の入ったボトルを取り出した。  そのキャップを開け、燕斗はこちらを見る。 「ほら、薬。飲ませてあげるよ」 「い、いい……自分で……ッ」  飲む、と言いかけたときだった。  燕斗は「遠慮しないで」と俺の手を重ねるように握り、そのまま硬く握りしめた俺の拳を開かせてくるのだ。  こいつ、顔に似合わず力が強い。中身は宋都と同じなのだから納得も納得なのだが。 「や、やめろって、おい……っ!」  そんな燕斗に敵うはずもなく、呆気なく俺は燕斗に薬を取り上げられた。  錠剤を二つ、シートから取り出した燕斗はあろうことか俺の目の前でその二つの錠剤を自分が飲むのだ。  目を疑った。何を考えてるんだ。  凍り付く俺を前に、燕斗はべ、と舌を出して笑った。 「ほら、お前も口を開けなよ。美甘」  俺が飲ませてあげる、と燕斗は俺の顎を掴む。  驚きの屈辱のあまり、思わず反応に遅れてしまう。 「っ、お、まえ……ッん、う……ッ!」  口を閉じる隙もなかった。  錠剤を乗せた舌は咥内へとねじ込まれ、躊躇なく俺の舌へと絡められる。  唾液が絡み、ざらりとした感触が不快だった。 「……っ、ん、んう……ッ!」  俺の咥内へと薬を移した燕斗は、そのままちゅぷ、と音を立てて唇を離す。  そして、予め用意していたミネラルウォーターのボトルを口に含むのだ。  ――油断していた、こいつらに常識や人の心、倫理観諸々などあってないようなものだということを。 「燕斗、待っ――……ッ、ん、ぅ……!」  上を向くように顎を掴まれたまま舌ごと水を喉奥まで押し流される。  注がれるそれを拒むことなどできなかった。  水に押し流され、喉の奥、ころころと流される薬の感触を感じる。  嫌なのに、拒むができない。受け入れることしか許されず、俺の口の中が空になってようやく燕斗は唇を離すのだ。 「……っ、は、……ッ、けほ……ッ!」 「あーあ、ベッドまで濡れたね。……全く、美甘は昔から要領が悪いんだから」 「……っ、燕斗、お前……ッ」 「そのままじゃ気持ち悪いだろ? 俺が着替えるの手伝ってあげるよ」 「脱げよ、美甘」溢れた水を拭い、咽返る俺の口元をそっと袖で拭いながら、やつは王子様のような顔とは正反対の言葉を口にするのだ。
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