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そのじゅうに:異性からのアピール
ある日の放課後。
ラスは校舎の前でそわそわしながら、誰かを待っている様子の他校の女子生徒の姿を発見する。
あれ?あの人…。
滅多に女子などは来ない学校なので珍しいなと思いながら、ゆっくりと近付くと、長く綺麗な髪を揺らし困った様子でうろうろする彼女の背後から「あのー」と話しかけてみる。
びくりと反応する細身の体。ゆっくりと警戒しながら振り向くと、ラスの顔を見て安心したような様子を見せた。
「あああ!あんただったのね…良かったぁ」
「誰かと思ったらリゼラちゃんじゃないかあ」
前にパンを強奪されたとリシェが恨み節を言っていた少女。
しっかり後程には代金を支払ってくれたが、リシェはパン女のイメージが強過ぎたようだ。
名前をなかなか思い出せなかったらしく、彼女をパン女と呼び殴られて帰寮したのが記憶に新しい。
「久しぶりだねぇ。…てか、ここまで来てくれるなんて珍しい。誰かに会いに来たの?」
「う、うん。そうなんだけど…」
リゼラはちらちらとラスの周辺を見た。
「ええっと、あいつは?一緒じゃないの?」
「あいつ?」
「あの小さいの…」
小さいの。
その発言でラスはリシェの事かとすぐに理解した。本人が聞けば激しく怒り狂いそうな発言だが、誰を指しているのか凄く分かってしまう。
「先輩の事かぁ。先輩、行方が分からなくて。教室にも居なかったんだよねぇ…先に寮に戻ってるのかもしれない。何か用事があったなら電話するけど」
リゼラはううんと唸る。
「誰かに会いに来たんでしょ?良かったらこっちに呼んでくるけど…」
ラスの申し出に、彼女は一瞬動揺の表情を浮かべた。そして軽く咳払いすると、「あの、あいつに」と妙に照れたように言う。
その初々しい表情に、どちらかといえば経験豊富なラスはハッとした。
「まさか…せ、先輩?」
指摘されたリゼラは可愛らしい顔を真っ赤にし、何故かムキになりだした。
「そういうんじゃないのよ!!ただ、渡したかったものがあって」
「渡したいもの…」
彼女は後ろに何かを隠している様子。あまり見えないが、パンでは無さそうだった。
何だろう、先輩にって…。
複雑な気持ちになりながらラスは制服のポケットから自らの携帯電話を取り出していると、背後から声が聞こえる。
「何してるんだ、ラス…」
眉を寄せながらひょこひょことリシェが近付いてきた。あれだけ探していたのに一体どこに居たのかとラスは安堵するが、同時に複雑な気持ちに陥る。
女子が彼を探しにわざわざこの学校まで来たのである。リシェが大好きなラスの胸中が不安になってしまうのは当然の事。
彼女がリシェの姿を確認すると、身を固く緊張させるの分かった。
それを見るや、ラスは「うわぁああ」と心の中で叫ぶ。
これってマジなあれなんじゃ…?という気持ちが頭の中を掠めた。
「あっ」
リシェは突然の来訪者の姿に目を大きく見開いた。
「ええっと…」
彼は必死にリゼラを見ながら何かを考え始める。口元をぱくぱくさせながら、言葉を捻り出そうとしていた。
「せ、先輩?どうしたんです?」
ラスの問い掛けに対し、リシェは不安げな顔を見せる。その瞬間、まさか…と変な予感がした。
まさか先輩、またリゼラちゃんの名前を忘れてしまったのでは、と。
リゼラはリシェの前に進むと、綺麗にラッピングされた袋をずいっと突き出しながら「ほら」と口を開く。
「え?」
「かなり遅れたけど。どうせあんた、誰からも貰ってないんでしょ?だから渡してやろうかと思って」
リシェは不安げな顔を見せながら「え?」と繰り返していた。
やばい、まだ思い出せていないのか。
ラスは困惑気味のリシェの横で、彼がまたパン女と暴言を吐く前に先回りして名前を知らせてやらないとと焦った。
リゼラはリシェの様子を見て、やっぱりねと得意げに鼻を鳴らす。
「あたしがわざわざあげるんだから、お礼はちゃんとしなさいよね」
「よ、良かったじゃないですか先輩!!それ、バレンタインのチョコじゃないですか?まさかリゼラちゃんからわざわざ渡しに来てくれるなんて先輩も隅におけないなあ!」
複雑な気持ちだが、とにかく名前を教えてあげないととラスはわざとらしく喜んでみせた。
「あっ…!あ、う、うん。よ、良かった…」
リゼラからのプレゼントを受け取り、リシェはラスに言われるまま頷いた。だが何故彼女が自分にチョコを渡してくるのか理解出来ない模様。
無事に渡せた事で清々したのか、リゼラは「じゃあね!」とだけ言うとさっさと帰ってしまった。ある意味あっさりしている性格だ。
「………」
意味が分からないといった風なリシェ。しかし間を置いてから「ああ」と安心したように声を上げる。
「良かった。お前のフォローでやっと名前を思い出せた。危うくパン女って呼ぶ所だった」
「………」
やっぱり忘れてたのか…。いや、それよりも。
…先輩がまさか女子からのアプローチを受けてしまうとか。
「ついフォローしちゃったよ…」
ラスは複雑な気持ちになりながらも、とりあえずにこやかに笑みを浮かべていた。
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