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そのじゅうご:攻略対象
先輩はゲームが好きなんですねぇ。
その一言から会話が始まる。
「んー」
いきなりその話になり、読書をしていたリシェは「…そうか?」と疑問符を投げかけた。ラスはそうですよとやや拗ねたように返す。
ゲームに夢中になるので、自分に目を向けてくれないのが若干不満のようだ。リシェにしてみれば、そんな事を言われてもと思うだろう。
「だってゲームに夢中になって俺に構ってくれないし…」
その発言で、リシェは心底面倒そうに顔を顰めた。
「は?」
年齢は一歳違えど、自分よりは大人なのに子供じみた事を言う。
「そりゃゲームが楽しいっていうのは分かりますよ。俺もたまにやりますからね…でもほら、会話をする事でお互いを知るっていうのも大事だと思うんですよ」
「お前なんて俺が会話を振らなくても勝手に喋り出すじゃないか」
これ以上何を望むのかと呆れる。
勝手に追い掛け、一人だった自分の部屋の同居の手配を否応なく勝手に進め、長い休み時間になれば勝手に教室にやってくる。行き帰りも一緒。常に行動は同じだ。
最初はうんざりしたが、今はもう麻痺したのかどうでも良くなっている。というより、諦めた。
喋る機会など腐る程あるのだ。むしろラスの独壇場だというのに、まだ不満なのだろうか。この上更なる対談を望むとは贅沢もいい所である。
「俺はもっと先輩の事を知りたいんですよ!」
「うるさいなぁ…」
「俺がもし恋愛ゲームをするとしたらですよ?」
なんだいきなり…とリシェは読書の手を止めた。
「先輩を真っ先に落としにいきます」
その言葉に、リシェはははっと乾き切った笑いを放った。
「馬鹿馬鹿しい。そんなもの、難易度高いぞ」
「いいや、絶対落としますね!先輩は甘いものが好きですからね!ひたすら好きなもので釣ればイチコロだと思いますよ!」
そんな訳あるか、とリシェは憤慨した。
「俺はそこまで単純な脳味噌じゃない!」
そうやってすぐにムキになってしまうあたり図星なのではないだろうかとラスは笑顔を向けながら思う。だがリシェはそう上手くはいくものかとぷんぷんと怒っていた。
「恋愛系じゃなくて戦略物だとすればですよ。例えばあの保健医。あれはきっと真っ先に先輩が乗ってる機体を狙うと思うんですよ。あんな優男に見えて結構単純な感じですから」
「だから何で俺を的にして例えるんだ?!いい加減にしろ!!」
ムガー!!とリシェは顔を真っ赤にする。勝手に堕とす対象にされ、たまったものではないと言わんばかりに。
「攻略対象が一緒だからですよ…」
「ふん。それなら俺は片っ端から迎撃してやるからな」
ギリギリと苛立つ始末。
甘い顔立ちなのに非常に喧嘩っ早いのが勿体無い。
「あの人は別に落としてもいいですよ。きっと先輩を機体から引き摺り下ろして、手篭めにしようと画策するタイプですから」
「何だそれは!!気持ち悪い言い方をするな!!」
「だからこそ倒すのは一番先にした方がいいと思うんです…」
むしろ真っ先に攻撃して下さいと言わんばかりにラスは進める。
何だか話の方向がおかしげになってきたような気がしたが、気にしない事にした。
ラスはさて、と一息吐くと椅子からスッと立ち上がる。
「先輩」
「んあ?」
いまだにギリギリしている彼に対し、ラスはにこやかに「ドーナツがあるんです」と話題を変えた。
「有名な店が期間限定で出店販売してたんですよ。とても美味しいって噂で…折角だからバイト帰りに買ってきたんですよね。食べますか?」
そう言いながら共同の戸棚から可愛らしいデザインの紙袋を引っ張り出してきた。
リシェはそれまでの表情を止めると、次第に目を輝かせ始める。
「食う」
期間限定で美味しいと評判の店なら間違いは無い。
「さぞかし美味いんだろうな」
リシェは先程の会話をすっかり忘れているのか、興味が既に甘いドーナツに向けられている。
現金な彼に、ラスはやっぱり単純だなぁ…と苦笑しながら「じゃ、食べましょう」と用意を始めた。
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