そのじゅうろく:しがつついたち

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そのじゅうろく:しがつついたち

 今日は嘘をついてもいいそうです、とラスは言い出す。 「そうか」  リシェはそんな彼に対し非常に普通な反応を見せると、読書を始めた。特につきたい嘘など無い上に、全く興味が無い模様。 「何でそこで会話を切るんですか!もうちょっと俺に構って下さいよ!!」  毎度一緒に居て構うも何も。  うんざりしたようにリシェは本を閉じると、面倒臭そうに「何だ」とラスの顔を見上げた。これからまだ彼の相手を延々としなければならないのかと思うと精根尽き果てそうな気がしてくる。 「もう、先輩なんて嫌いですよ!」  ぷいっとラスは膨れて顔を背ける。  あまりこいつから嫌いという言葉を聞いた事が無かったな、とリシェは無表情で思った。  一方、膨れっ面のラスは横目でリシェの表情を盗み見る。  嫌いと言った事でリシェがショックを受けているのではと謎の期待を込めながら。  しかし彼は、本を手にしたまま表情は変化無し。物凄く普通だ。 「そうか」  そして普通に言葉を返すと、再び本を開いて読もうとする。 「いやいやいやいやいやいや!!」  何普通にしてるんですか!!とラスは慌ててリシェから本を引ったくると、ぎゅうっと彼に抱き着く。柔らかな頰にぐにょりと顔を寄せながら「そうじゃなくて!!」と叫んだ。 「そこはしゅんとする所じゃないんですか!?何で真に受けてるんですか!」 「………」  別に真に受けてる訳では無い。 「ただそうか、としか言ってないのに」  勝手に解釈するのはやめてほしい。  離れろ、とラスから離れようとするリシェ。仕方無く身を離すと、ラスは拗ねたままで「俺が先輩を嫌う訳ないじゃないですか…」と唇を尖らせる。 「お前、仲間内で面倒臭い性格だって言われないか?」 「言われた事ありませんよ」 「そうか。物凄く面倒臭いぞ」 「先輩が好きだからじゃないですかね?」  あぁ、とリシェは脱力した。  本を読む気が完全に失せてしまい、リシェは本棚に本を戻した。彼はしょっちゅう校舎内の図書館内の本を借りて読むが、最近ラスが読書の邪魔をするかのように声をかけてくるので思うまま読書を楽しめずにいる。  こいつも黙って雑誌とか読めばいいのに、と思わずにはいられなかった。いっその事、彼を殴り反省室に入って読書でもすればいいのだろうかと過激な事を考えてしまう。 「ねぇ、先輩」 「ん」 「何か嘘ついてみて下さいよ。先輩は正直者だから嘘とか吐かないでしょ?きっとレアなんじゃないかなぁ」 「………」  いきなり嘘を吐けと言われても、とリシェは困惑する。  動画でも撮っておこうかなぁ、とウキウキしながらラスは携帯を操作し始めた。 「さ、先輩!どうぞ!」  カメラを向けられ、リシェは更に困った。 「何でもいいですよぉ。言わないような嘘を言ってみて下さい」  ラスにしてみれば、おふざけなどに興味の無いリシェが冗談を言うのを記録しておきたいのかもしれない。 「何を言えと…」  リシェはしばらく考え込むと、仕方無いなと一息吐いた。 「おっ、先輩。言ってくれるんです?」 「ああ」  ここでも無表情の彼は、ラスに向けて一言言った。 「俺はお前が大好きだ」 「…………」 「言ってやったぞ、嬉しいだろう」  無感動のままでそう言うなり、リシェは飲み物を求めてキッチンへ向かう。動画を撮ったままのラスはそのまま固まり、リシェの言った言葉を頭の中で繰り返し反芻していた。  今大好きって言ったよ…?  脳内に浸透させ、理解した後で彼は「先輩っっ!!」と叫んだ。 「俺の事好きだって言った!!言いましたよね!?」 「言ったよ。嘘を吐いたんだ」 「大好きだって!!言った!!!」 「うるさい!!」  血相変えながら彼はそう叫ぶと、録画した動画を繰り返し見返す。 「先輩、俺の事好きだって言ったよ!!」  まさか本気で捉えたのか、とリシェはゾッとする。そして躍起になって叫んだ。何を誤解しているんだと。 「さっきお前、嘘吐けって言ったじゃないか!!」  どれだけ楽観的な脳内をしているのかと怒る。  しかし彼は撮った動画をひたすら繰り返し見て、泣きながら好きだって言ってくれたぁ…!と感動に打ち震えていた。
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