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そのじゅうなな:引き摺る男
延々と思い出し笑いをするラスを見て、不愉快そうにスティレンがリシェに「ちょっと」と声を上げた。
放課後、久し振りに屋上で駄弁っているいつもの面々。
何かを思い出してにへらぁと笑っては普通の表情に戻り、そしてまた顔を緩ませるという非常に不気味な芸当を披露しているラス。目の当たりにしているスティレンはそれを目にする度に、あまりの気持ち悪さに顔を顰めていた。
リシェはいつものように無表情のまま。
「こいつ何なの?」
ラスを差しながら苦情を言う。
「こいつが勝手に何か思い出して笑うのはいつもの事じゃないか」
完全にラスに対して耐性が付いてしまったらしく、彼は何とも思わなくなってきたようだ。それもどうかと思うのだが。
一方のラスは、また何かを思い出して「んへへへぇ」と不気味に笑う。我慢の限界になっていたスティレンは、彼に「笑うな!!」と怒鳴った。
相変わらずめちゃくちゃな要求だ。
「さっきから何なのさ、一人で勝手に笑い出して気持ち悪い!!」
怒るスティレンに、ラスは笑顔のままで「だってぇ」と笑いながら言い返す。
「先輩が俺の事好きだって言ってくれたんだよぉ」
「あぁ!?」
その言葉を聞き、スティレンはリシェの方に振り返った。
「お前が原因じゃないのさ!!」
そして矛先はリシェの方へ向かう。彼は従兄弟の言葉に激昂した。
「何だと!?」
「ちゃんと録画したもん…先輩が俺に好きだって言ったの…」
腹が立つ位にヘラヘラしながら、彼は何度も前回の会話を見返して上機嫌になっていた。
リシェは「嘘を吐いた時のものをまだ残してやがるのか!!」と呆れる。嘘を吐いてもいいらしいという四月一日から、既に半月を超えているのだ。
しかも録画して延々と見て悦に入るとは正気ではない。
「こいつが嘘を吐いていいって言ったから嘘を言ったまでだぞ!」
必死に言い訳をするリシェ。
スティレンは何となく内容を理解してきた。要するにリシェが言った冗談を本気にして勝手に幸せになっているという事らしい。
嘘なのに。
「んっふ…これずっと見てられるぅ…」
何だか可哀想に見えてきた。
スティレンは脱力しながら、リシェに向かって首を振る。
「今のこいつに何を言っても無駄だと思うよ」
頭の中がお花畑咲いてるっぽいし、と毒を吐く。
リシェは「はぁ」と溜息を吐いた。
「こいつは自分から嘘を吐けって言ったんだぞ…」
「その嘘の内容が悪かったんじゃないのさ」
「俺は嘘を言ったんだぞ。それなのにこいつはこれだ。結局こいつは俺が何を言っても都合のいいように受け取るんだ」
ここまでおめでたい頭をしているとは思わなかった、と頭をかくりと垂れた。既に彼に関しては諦めている様子だ。
しかもよくここまで引き摺れるものだと感心してしまう。
「結局お前が全部悪いんじゃないか…」
「俺が悪いって言うのか。こいつの行動の責任なんて取れないぞ。俺が何を言おうがこいつの行動なんて予測出来ないんだからな」
嬉しそうにしている彼を遠目で見ながら、スティレンは「…まぁ」と続ける。
「誰も傷付けないし勝手に笑ってるだけだからね。めっちゃくちゃ気持ち悪いだけで」
「…………」
確かにそれはそうなのだが。
「ほっとけばそのうち正気に戻るんじゃないの…気持ち悪いけど」
彼の言いたい事も十分に分かる。
「いつ治るんだ?」
「さぁ?知らない。忘れた頃にマシになると思うよ、多分。気持ち悪いけど」
「気持ち悪いって言い過ぎじゃないのか…」
ラスは相変わらず録画した動画を延々と見続けては嬉しそうな顔をしていた。やはり気持ち悪い。
治るのをひたすら待たなければいけないとは。
いつマシになるのか分からない同居人に、リシェは「面倒臭い…」とげっそりしながら呟いていた。
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