そのにじゅうに:壺

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そのにじゅうに:壺

 リシェの実家からまたもや大きな荷物が届いた。  扉に入れる際には直で入れるには厳しく、縦にしてようやく引き摺るように中へ押し進めた後で早速開封してみる。 「おっ…うわ、うわ!!何だこれ」  にゅるにゅると出てきた物は圧縮された楕円形の何かだった。 「先輩の実家って何でも送ってきますね」  うっかり見境無く、と言いそうになってしまいどうにか押し留める。  リシェも困った顔でそんなに送らなくてもいいって言ってるのになぁと呟くと、どうにかして同封されている手紙を引っ張り出した。真っ白い便箋に書かれた内容を、いつものように広げて読んでみる。 「『旅行先で見つけた収納用の壺です。広げて何か入れて下さい』」 「壺?これが壺なんです?」 「壺って書いてるけど…」  ラスは梱包用のビニールにハサミを入れて外に出した。確かに中の物は茶色いが、収納用の壺とはどういう意味なのだろうか。  リシェは手紙を閉じた後、首を傾げてラスに問う。 「…何で?」 「先輩、実はそれ一番言いたいんでしょ…」  毎度のような反応に思わず苦笑した。何でと聞かれてもこちらにも分からない。とりあえず広げてみますか、と折り畳みタイプの壺を広げてみた。  ガガガガ、と音を立てながら広がった壺は、結構な大きさで上部分から何かを入れる事が出来るようだ。玩具などを入れるにはぴったりだろう。しかし大きさにかなりのゆとりがある。  蓋部分は自分で取り付ける事が出来るようだ。別入りの袋にプラスチックの蓋が付属していた。 「…デカいな」  その意外な大きさに、リシェはぼそりと呟く。 「ですね…」  確かにその大きさは小柄な人間なら普通に入る事が出来そうだ。 「こんなに大きい収納ケースなんて見たの初めてですよ。よく見つけますねぇ」 「…………」  リシェはおもむろに壺を少し縮めると、その中に足を入れて入り込んでみた。再び壺を広げ、「おぉ」と何か関心したように呟く。 「先輩…」 「ラス。蓋を寄越せ」  大きな壺の中にリシェが入る形になる。  ラスは言われるまま蓋をビニールから出し、「はい」と渡すと彼は自分で壺の蓋を閉めた。蓋はスライド式のようだ。中に留め具があり、綺麗に閉じる事が出来る。 「………」 「………」 「………」 「………」  しばらく間が開いた。 「先輩」 「ん?」  ラスは蓋の閉じ切った壺に声を掛ける。 「それ、どうする気ですか?」 「うーん…」  どうする気かと言われても。  壺の中に入り込んだリシェは押し黙る。さすがにこれは部屋に入れたままにするのはどうかと思う。使いこなせる自信が無い。かくれんぼとかになら使えそうな気がするが、収納面ではどうなのだろう。  何かに使えたらなぁ、と考える。 「先輩」 「ん?」 「出ませんか?とりあえず…何か、俺…壺に話し掛けてるみたいで変な気分になります」  物凄く違和感があるようだ。確かにこの状況を第三者側から見れば、かなりシュール過ぎる画に映るだろう。 「ちょっと待ってろ。何に使えるか考えているから」 「はぁ…」  壺はひたすらぐらぐらと蠢いていた。  プラスチック製で、意外にも頑丈そうにも見える。遊び道具として考えるならば、子供はとても喜びそうだ。 「うーん」  ラスは周りに広がった段ボールやビニールを片付け始めた。 「部屋に置くにもこの大きさだとなぁ」 「そうですよ。それだったら寮側に引き取って貰った方がいいんじゃないですか?何かしら入れる物とかありそうだし…」  折角送って来てくれた物だが、流石に個室には向かない大きさだと思う。依然リシェは壺の中に入ったままぐらぐらと蠢いていた。 「先輩…」 「ん?」 「出て下さいよ。何だか変な気持ちになります」  やはり違和感が拭えないらしい。  しかしリシェは「ちょっと待て」と言いながら一向に出る気配が無い。あまりにも出て来ない様子なので、ラスは困惑しながら壺に問う。 「もしかして気に入ったんじゃないですか?」 「まさか」  壺の中のリシェはひたすら蠢き「そんなはず無いだろ」と返すものの、やはり気に入ったのかなかなか出て来そうになかった。
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