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そのにじゅうご:依存
「この俺が振られるとか有り得ないと思わない?リシェ」
「………」
知らんがな、と言いたい所だがこの従兄弟に何があったのか少しばかり興味を持ってしまった。無表情のままのリシェは「何があったんだ?」と聞いてみる。
するとスティレンは勿体ぶった様子でふふんと鼻を鳴らした。
「この前街に買い物に行って来たのさ。新しい服とか美容液を買いにね。そしたら知らないおっさんに声掛けられた訳」
「はぁ」
「何かと思うじゃない?んで話を聞いてみたらモデルのスカウトだったのさ」
「………」
スティレンが言う話の内容となれば、大半は自慢話になる。
リシェは全くそれに関して興味が無く、ただ「はぁ」、「ふーん」、「へぇ」、「ほう」で会話を済ませていた。
この場合も「ほう」とだけ返事をする。
リシェの適当な返事にもお構いなく、スティレンは話を続けた。
「目の付け所は良いよね。この俺を見つけて声を掛けてくるとかさ。でも話を聞いてみたら華やかな子に声掛けててっていうの。まぁ当然だよ。この俺に声を掛ける位なんだもん」
無表情をきめていたリシェの顔がまたか…という顔に変化するのにそうそう時間は掛からなかった。どうせここからいつもの自画自賛になっていくのだろう。
そう思うと話を聞くんじゃなかった、と後悔するのだ。
すると彼の表情がじわじわと曇っていく。
「でもさぁ、お目当ての対象が女だっていうのさ。男は用は無いんだって。おかしくない?この美しい俺をそのままスルーする気なのかってさ。失礼じゃない」
「………」
一方的に話を続けるスティレン。
「確かにさ?俺は男だけどさぁ。モデルを探すっていうなら男も視野に入れて欲しいもんじゃない?目の前に逸材が居るっていうのに」
この話はいつになったら終わりを告げるのだろう。
おもむろにペットボトルのお茶を取り出し、無言で口にした。
「結局お前はどうして欲しかったんだ?」
「当然例外で俺にもそういう話を持ってきてもいいって言いたかったのさ。この美貌をスルーして断るとか、見る目無さ過ぎでしょ」
「………」
良くここまで自分に自信が持てるなと感心する。
仮にそれに引っ張られたとしても、性格がこれでは誰にも見向きもされないと思うのだが。
本当にある意味では羨ましいと思う。
「じゃあ誘われたらホイホイ着いて行ったって訳か?」
これほど未練がましく言うという事は、モデルになってみたいと切に願っているのだろう。上昇志向があるのはとてもいい事だとは思う。
飛び込んできたリシェの質問に、スティレンは「そうだねぇ」と満更でも無さそうに唸る。しかしその後すぐ、「ま、断るだろうけどぉ」と真逆の返事をしてきた。
リシェは目を見開き「は?」と声を上げる。
ここまで話を引っ張っておいて断るとか。今までの前振りは何だったのだろうか。
「そこまで言っておいて断るって」
「だって変な場所だったら困るじゃないさ。それか名刺だけ貰っておくね。それに、俺が居ないとお前はなにかしら困るだろうし」
「そこで何で俺を引き合いに出してくるんだ?」
「そりゃそうでしょ。お前を一人にしたら変なものが寄ってくるかもしれないじゃない」
勝手にこちらを理由にしないでほしい。
「ふふん。お前には俺が居ないとね…街に行ってもすぐ迷子になりそうだし、高級な料理の事なんて全く分からない上にテーブルマナーも知らないでしょ」
そこまでスティレンに依存していないリシェは、何言ってるんだと呆れた。
「俺は別に街中で迷子にならないし、高級な料理を食うつもりもないからマナーとかお前に教えて貰わなくてもいいぞ。だから安心してどっかに行ってくれてもいい」
むしろ行ってくれ、と言わんばかりの言い方で突っぱねた。
するとスティレンは「何を生意気に!!」とリシェの柔らかな頰をぐにょりと引っ張る。
「痛い!!」
「リシェの癖に口答えして!いいからお前は俺に依存してればいいんだよ!!」
「絶対嫌だ!!」
俺が居ないと寂しいくせにさ!と強引に頰を引っ張っていく。
「勝手に俺に着いてきた分際で何が依存だ馬鹿!!」
滅茶苦茶な事を言い出すスティレンと、彼に虐げられているリシェを遠目にした同級生らはまたやってるよ…と苦笑いをしていた。
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