そのにじゅうろく:クール便

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そのにじゅうろく:クール便

 寮の部屋にもようやく冷房の恩恵を受けるようになり、室内での過ごし方も快適になっていた。出来る事ならもっと早く対応して欲しいものだとリシェは軽く愚痴っていたが、冷たい風に当たっていくにつれてそのような不満も薄れてきた模様。  そんなある夏の日、ラスが実家から届いたと言われた手荷物を持って部屋に戻ってきた。 「先輩」 「ん?」 「実家から何かが届きました。何か美味しいものかもしれません」  彼の実家から物が届くとは珍しいな、とリシェは思う。むしろリシェ側からの頻度が高過ぎる為にそう思うのかもしれない。  今、アストレーゼン学園内は夏休みの期間になっている。希望者は各々実家に戻り、夏の限られた休みを楽しんでいるが、リシェは面倒がって戻らなかった。その為にラスも一緒に残る事にしていたのだ。もっとも、彼の場合は比較的近場にあるので戻ったとしても対して問題は無いのだが。 「何が入っているんだ?」 「うーん…何だろう。クール便で届いたらしいからなぁ。アイスかゼリーとかかなぁ」  その割には強い冷気を放っている気がする。  ラスが手にしているその荷物は、外気に触れている為かやけに白い蒸気が噴き出していた。 「開けてみましょう」 「ああ」  ここまで冷たい雰囲気を醸し出しているなら、アイスか何かじゃないかなぁと呑気な声でラスは言う。この時期にぴったりではないだろうか。色んな味のアイスを想像し、思わず唾を飲み込んでしまった。  よいしょ、と箱を共用のテーブルに置いた後でハサミを用いて紐を解いていく。頑丈に収納された箱を丁寧に剥がしていくにつれ、リシェはある事に気が付いた。 「なあ」 「ん?何ですか?」 「何だか生臭くないか?」 「ええ…?」  思っていた物とは違う匂いを感じる。  ラスは中の包みを広げると同時に、リシェ同様無表情になってしまった。 「………」 「………」  二人の目の前に置かれたものは。 「どうしろっていうんだ…」  ラスは深く溜息を漏らし、その中身を引っ張り上げる。 「海老だ…」 「ああ…立派な海老だ…お前の好物か何かか?」 「いえ、別に…」  キンキンに凍り固まった大きな海老が五尾。  リシェはその手にした海老をぽかーんとした表情で見ていた。 「…何で?」  やっぱり出たそのセリフ。 「俺が聞きたいですよ…」  これをどうやって処理して食べろというのだろうか。寮の厨房に持って行くしか対処方法が思いつかない。困惑気味のラスに、リシェは声をかけた。 「何か手紙が入っていないのか?」  指摘され、ラスは更に中を漁っていると厚手のビニールに入っていた一枚の紙を引っ張り出す。 「あったあった…ええっと…『海老が安く買えたので買って送ります。どうにかして食べて下さい』…」  まるでどこかで聞いたような手紙の内容だ。 「どうにかしてって…お前、海老を捌ける能力でもあるのか?」 「無いですよぉ…」  じゃあ厨房行きじゃないか、とリシェは言った。夏休みでも残った寮生の為に常に厨房は開けている。持っていけば何かしら調理してくれるはずだ。 「ゼリーとかで良かったんだけどなぁ…絶対そっちの方が安上がりだと思うのに…」 「俺、海老汁食べたいなぁ」  渋々した様子のラスは、箱を手に厨房へ向けて室内から出ようと動いた。リシェはそんな彼に向けて自分の要求を飛ばす。  ラスは苦笑しながら、そんな彼に「そう伝えてきます」と告げた。
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