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そのにじゅうきゅう:解答
ううん、とラスは唸った。
「やばい…やばいぞこれは」
ある日の放課後。いつものように校舎の屋上で駄弁っている三人。
ひたすら悩むラスに、スティレンは「何さ?」と眉を寄せる。
「さっきから神妙な顔して。いかにも突っ込んで欲しいって言わんばかりに。言いたい事があるならさっさと言えば?」
「そんなつもりはないけどさ…中間テストの結果が来たじゃん?」
「あぁ…来てたね。ま、俺は才色兼備だから問題は無いけど」
ふふん、とそこでも威張るスティレン。
その隣で、リシェはぼーっとしながらスナック菓子を口にぽいぽいと含んでいた。
「…良くそんなものが食えるね」
無言で食べ続けるリシェを見ながら、スティレンは呆れていた。彼はあまり菓子類を口にしない。その位の年齢だと、甘いものやジャンクフードには目が無いものだが、美意識の高い彼は違った。
ただ単にうっかりすると太りやすい傾向にある体質だから余計に毛嫌いしている風にも思えるが。
一旦口にすると止まらない恐れがあるので出来るだけ触れないようにしているのもある。
「食いたきゃ食えばいい」
「いらないよ!!」
何の悩みも無さそうな能天気なリシェを突き放し、スティレンは「で?」とラスに話しかける。
「どうせ成績が落ちたっていうんでしょ。自分が悪いんじゃないのさ」
「そりゃそうだけどさ…ほら、恋煩いし過ぎて勉強に身が入らなかったっていうか」
スティレンはもぐもぐと口を動かし続けるリシェに注目した。平和そうな顔で悠長に菓子を食べる様子に、何故か妙に苛立ってしまう。
そして気付けばリシェの頭をスパーンと張っていた。
叩かれた瞬間、彼は「うべっ」と謎の声を上げながら口にしていた菓子を若干吹く。
「…痛い!!!何だお前!?」
急な暴挙に対し、リシェは激昂する。
「お前、勝手に他人を誘惑してるんじゃないよ!」
「はぁ!?」
そんなもの知るか、と叩かれた仕返しのように従兄弟の頰をぐにょりと強めに引っ張った。痛ぁい!!と当然喚くスティレン。
「何でいきなり殴る!!」
「ラスの成績が落ちたのはお前のせいだってよ!」
「何だと!?俺のせいにするな!!」
二人で取っ組み合いをする最中、当のラスは「ちょ、ちょっと…」と諌める。こうして従兄弟同士で揉めるのは日常茶飯事なのでそこまで深刻に考えてはいないが、理由が自分の事となれば流石に止めざるを得ない。
成績が落ちたのは自分がリシェの事ばかり考えていたからであって、決して彼のせいではなかった。
「いや…ほら、それは俺のせいだから喧嘩しなくていいよ…」
「…ふん。こいつが見境なく誘惑するもんだから余計な人間がくっついてくるんだよ、全く。恥ずかしいと思わないの?」
「そうやってお前は理不尽に俺を責める!」
リシェは紅潮した顔で怒鳴り散らし、終いにはうわー!!と泣き出す始末。まぁまぁ…とラスは泣くリシェを抱き締めた。ここぞとばかりに抱き締めているその様子に、スティレンは思わず舌打ちする。
彼は常にリシェに密着出来るタイミングを図っているのだろう。
「…で?テストでも返却されたんでしょ。どんだけ変な点数だったのさ?」
「え?」
一体どのくらいのものだったのか見てやろうじゃない、とスティレンはラスに手を突き出した。しかしラスはえぇ…と見せにくそうに躊躇する。
だがスティレンはそれでも「いいから」と手を突き出した。
「いいけどさぁ…笑わないでよぉ」
そう言い、渋々と鞄からテストの結果を一枚引っ張り出した。
「どれどれ」
「それに、俺は二年なんだから点数とかあまり指摘しないでよね」
手渡された用紙に目を通していくにつれ、スティレンは眉間の彫りが深くなっていった。
「…あぁ…」
「………」
ようやく目を離すと、スティレンは「何なの?」とラスに苦情を述べる。
「…だから突っ込まないでってば」
「ひっどい解答。普通に解答している所もあればぜんっぜん関係ない答え書いてるし…」
ラスに抱き締められたままのリシェは、涙目になりながらスティレンからテスト用紙をひったくると同じように目を通す。
「………」
そして内容を確認した後、絡んでくるラスの腕を振り払いテストを顔面に叩きつけた。
「先輩!!」
「馬鹿かお前!死ね!!」
これ以上ない暴言を吐き捨てると、リシェは怒りながら鞄を引っ掴みそのまま大股で去ってしまう。ラスは悲しそうな顔でしょげると、そこまで言わなくても…と頭を垂れた。
「そりゃそうだろ…何で解答にあいつの名前を書くかなぁ…」
むしろ解答を付けた教師に同情してしまう。
ここまできたらもう病気だろ、とスティレンは改めて大半が間違いだらけのテスト用紙を見ていた。
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