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閑話 クラゲ王子たちの嘆き
「まさか途中でダメになるなんて。」
「誰も予想出来なかったな。」
「でも考え様によっちゃラッキーだろ?」
「確かに。最後までやってたら電車動いてなかったもんな。」
「この雪いつ止む?雪が止んだら俺行くわ。」
「バカなの?この雪じゃ高速なんか通行止めに決まってんだろ!」
「明日の朝になれば行けるかもしれないだろ!」
「事故ったらどうすんだよ!東京産まれ東京育ちの俺らには雪道のハードルは高すぎるって。」
「だって丸々3日もオフなんだぞ!?」
「オフって言葉の響きはいいけど結局のところは身動き取れないってだけだろ。」
「劇場が使えないだけで俺は空いてる!」
「外見てみろって。10cm以上は積もってるし明日の夜まで雪予報だからもはや絶望的。」
「劇場は使えない。ホテルからも出られない。おまけにこの3日間の穴埋めで俺たちにクリスマスはなし!極め付けにスタッフも含めてほぼ男しかいない。それが現実。」
強まる風と霙交じりの雪。そしてやはり発表された交通機関の計画運休を受けて事前にFCやプレイガイドから払い戻しのアナウンスをしたけれど、実際に払い戻しになったチケットは数える程。
ギリギリまで迷いながらも天気予報通りの嵐の中決行した舞台ではあったが、まさかこんな事が起きるなんて!
確かに何度かあれ?と思う事があったのは事実。
お客さんは気付いていなかっただろうけど、舞台を照らす天井の照明が時折チラチラとしていたのには全員が気付いていた。
大寒波到来。しきりにニュースでそう言っていた通りもしかしたら劇場の外は酷い吹雪なのかもしれない、そんな事を思ってはいたけれど。
まさかいきなり劇場全体が停電に見舞われるなど予想もしていなかった。
直ぐに非常灯は点いたものの薄暗い劇場で舞台を続ける事は出来ず。
マイクが使えない状況の中、劇場スタッフが拡声器でお客さんたちを落ち着けようと声を張り上げるものの、場内はパニック寸前。
三角さんと琥太郎の話し合いで琥太郎が舞台に戻る事になり、琥太郎が停電の影響を調査中であること、危ないから席で待機して欲しいこと、具合の悪い人は劇場スタッフに申し出て欲しい事を拡声器で説明すると漸く場内は少しだけ落ち着きを取り戻した。
15分ほど経ってパッといきなり照明がついた時には場内から歓声が上がった。
停電中に話し合った再開のタイミングの立ち位置にメンバーがスタンバイして、音響のタイミングを待つもののなかなか始まらない。
そのうちスタッフがバタバタし始めて、場内もザワザワと騒ぎ出した時、渋い顔をした三角さんが琥太郎の元へやって来た。
「喜べ。たった今から少なくとも3日はオフだ。」
「は?一体どう言う、」
「さっきの停電で音響が死んだ。」
「えっ?」
「ずっと瞬停が続いてたのが原因でPCのUPSが上手く作動しなかったらしい。停電と停電復帰時の急激な負荷で音響のメインPCが死んだ。」
「再起動出来ないって事ですか?」
「物理的に故障してるらしい。煙出てるってよ。」
「えぇ?煙?」
「機器の入れ替えと再設定にどんなに急いでも3日はかかるそうだ。」
「じゃあ舞台は中断ですね?」
「仕方ない。マイクは生きてるからお前がやりたいなら歌ってもいいぞ。ただしアカペラだけどな。」
「笑えませんから!とりあえず誘導が必要か。俺行きます。」
「払い戻し対応は事後でも可能。それ以外については未定だ。各購入先から通知する事になってる。」
「分かりました。」
「外はもう完全に雪だ。おまけに暴風。まだ交通機関は死んでないが時間の問題だろうな。」
「合わせて伝えます。」
結局舞台はものの30分で中止となり、琥太郎たちも交通が麻痺する前にととりあえず急いでホテルに移動したものの。
やはり今日を楽しみにしていたお客さんたちの落胆する姿を見てしまっては急遽決まったオフに喜ぶことなど到底無理だった。
せめて晶がいたら・・・
前回の大阪で不運にもインフルエンザに罹患した晶はまだ体調も本調子ではなくて。
だから無理矢理福岡まで来いとは言えずにいたけれど。
福岡公演の初日。
ホテルに戻って真っ先に電話した晶から思いがけず貰ったビックサプライズ。
「行く気なかったけどみんなに誘われちゃったら嫌とも言えなかったんだよね。」
「でも体調は?平気なの?」
「まぁ本調子じゃないけど具合悪いって程でもないし。福岡の美味しい物食べたら元気出るかもしれないしね。」
「じゃあ、来る、の?」
「でもまた何かあったら迷惑かけるか。やっぱりやめとこうかな。」
「迷惑とかないから!何があっても俺が面倒見る!月曜は休演日だから!」
「いや、面倒見てもらうつもりはない。ちょっとギリギリまで様子見ていい?最悪キャンセル料かかっちゃうけど。」
「いいよ!全然いい!キャンセル料気にすんの無し!体調悪いなら無理させたくないけど大丈夫そうなら来て欲しい!当たり前に!」
食い気味にそう伝えてホテルの部屋で1人飛び上がって喜びを爆発させていたのも束の間。
翌朝かかって来た一本の電話。
「まだ寝てた?」
「今起きた。今何時?何かあった?」
寝ぼけながらも取った電話は母親からのもので、無意識に発した自分の言葉を反芻してガバッと飛び起きた。
「何があった!?まさか晶!?」
「あぁその様子じゃちゃんと起きたわね。」
「何!?何があった!?母ちゃんが朝から電話して来るなんてよっぽどの事だろ!?晶は!?晶は大丈夫なの!?」
「何それ。野生の勘?」
「いいから!何があった!?」
「大声出さないの!」
「だから何があったんだよ!」
「昨夜、いや今朝か。晶が救急車で運ばれて来たのよ。」
「救急車!?何で!?何が、いや、いい!今直ぐ支度するから、新幹線の時間が分かったらまた、」
「落ち着きなさい。あんたが来たところでどうにもならないんだから帰って来なくていいわよ。」
「帰る!晶の容体は!?ってか何があったんだよ!」
「大丈夫。ただの胃腸炎だから。今流行ってるのよ、ものすごく。」
「ただの胃腸炎って、そんな大した事なければ救急車なんか呼ばないだろ!」
「まぁね。胃腸炎には胃腸炎なんだけど、多分あれはノロかロタ、若しくは両方かもしれない。」
「ノロ?ロタ?何それ!?」
「今流行ってるウィルス。両方一緒に罹患して入院になるケース結構あるのよ、最近流行ってるから。」
「それで晶は今どうなんだよ!」
「とりあえず点滴して落ち着いてるから大丈夫よ。」
「大丈夫じゃないだろ!」
「そりゃあ入院してるんだから辛いに決まってんでしょ!だけど生死に関わる状態ではないからって言ってんの!」
「ちょ、いいや、晶に直接電話するわ。」
「その電話がないから私が代わりに連絡してるんでしょうが!」
「何で!?電話がないってどう言う事!?」
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