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クラゲ王子の集いもといただの打ち上げ
「雪ちゃんいらっしゃい!これでみんな揃ったから自己紹介とかしとく?」
4人の女子が顔を見合わせる。
それぞれ面識はあったりなかったりで誰が一番に口を開くかお互いが様子を見ていてなかなか自己紹介は始まらない。
「じゃあ面倒くさいから私がみんなを紹介しよっか?あんまり時間もないし。」
そう言ったのは東馬晶(トウマアキ)28歳。
つい先日アイドルグループ ジェリーフィッシュのリーダーであり幼馴染の東馬琥太郎(トウマコタロウ)とすったもんだの末結婚したばかりの新婚さん。
2人のすったもんだにみんなを巻き込んだお詫びを兼ねて、先日ファイナルを迎えたツアーの打ち上げを約束通り東馬家でやる事になったのだが、いつもなら晶が1人で準備に追われるところ今日は助っ人が3人。
「じゃあ始めるね。今来たのはマネージャーの沢田雪ちゃん。」
沢田雪(サワダユキ)31歳。
ジェリーフィッシュの現場マネージャーである雪ちゃんはかなりの不器用さんらしい。
いつもはメンバーの送迎を兼ねての参加だけど今日はわざわざお休みを取ってまで準備から参加すると張り切ってる。
メンバーの大澤とはマネージャー以上恋人未満の関係の筈だけど詳しい話は教えてくれない。
まぁ今日も酔っ払えばきっと何か話してくれると期待している。
「その隣は青木の彼女の志穂ちゃん。志穂ちゃんって苗字なに?」
「大西です!大西志穂です!」
「大西さんって言うんだ。あ、こう見えてちゃんと社会人だから安心してね!」
大西志穂(オオニシシホ)23歳。
パッと見高校生にも見えなくないちびっ子で童顔の志穂ちゃんはジェリーフィッシュのメンバーの青木の彼女。
今回みんなで打ち上げの準備をする事になったのは志穂のたってのお願いが発端だった。
「で、私の友達の花田ひかり。」
花田ひかり(ハナダヒカリ)28歳。
ひかりは高校からの親友で、メンバーの颯太とひかりと私は仲良しの飲み仲間。
颯太くんとくっ付くか!?と思いきや今のところ全然そんな事考えてないらしい。
今日はそんな2人の進展にも期待を込めて忙しい中呼びつけた。
「よし!じゃあ取り掛かろうか。」
トップアイドルの住むマンションなだけにキッチンもそう狭い訳じゃないけど。
4人がキッチンに入れば流石に窮屈。
ただし雪ちゃんはおそらく戦力外だし、志穂ちゃんは気合いを入れてスマホを構えてるあたり、キッチンの最前線に立つのは必然的に2人しかいない。
「ひかり野菜切っといて。雪ちゃんも野菜切るくらいはいける?」
「オッケー!」
「頑張る!」
「じゃあ志穂ちゃんはこっちで私とお肉の下拵えしちゃおう。」
「はい!この間のスペアリブが美味しかったって紘ちゃんがいつも言ってるから、私も作れる様になりたいんです!」
「ごめんだけど、同じ味に仕上がるか分かんない。」
料理は愛情!って言うじゃん?愛情は篭ってるんだけど、私の場合、料理は適当!だからレシピなんかないようなものだし。
「とりあえずスマホで撮る程の事しないから一緒にやろ?」
「でも・・」
「私の料理って目分量だからレシピとかないし撮っても多分あんまり意味ないと思うよ?それよりやってみた方が良いって。」
基本の調味料だけメモを取った志穂が腕を捲って手を洗うと一緒に肉に取り掛かった。
スペアリブは初めから切り分けられているやつを買って来たし、後は味付けをして馴染ませたら焼くだけ。
もう一つの肉料理はヤンニョムチキンだから唐揚げを作ってタレを絡めるだけ。
これなら多分次からは1人で出来るはずだから。
ひかりの方は切って和えるだけ、茹でて和えるだけのおつまみをいくつか。
事前にひかりへ手順は教えてあるから初心者の雪ちゃんでも多分大丈夫。
大丈夫だと思うんだけど・・・
既にブロッコリーの房を切る手付きがかなり怪しい。
大澤から、くれぐれも怪我だけはさせないようにしつこく言われている手前、ヒヤヒヤとドキドキで目が離せない。
「志穂ちゃん唐揚げできる?今日は唐揚げ粉買って来てあるから、鶏肉を適当に切って先に揚げて貰える?」
「私、揚げ物って1人でした事なくて・・」
「大丈夫。粉つけて油に入れるだけ!やれば出来るから!」
「えぇぇ?」
「ひかり代わるから志穂ちゃん手伝ってあげて。あと枝豆もお願い。」
「りょーかい。」
これはひかりがいなかったら大変な事になってたわ。
集合も早めに設定して大正解だったかもしれない。
「雪ちゃん力みすぎ!もっと力抜いて。そんなに押し付けないで、硬い物は引くより前に押す感じで、そうそう。」
無事に雪ちゃんがブロッコリーを解体するのを見届けて残った芯をラップに包んで冷蔵庫にしまう。
不思議そうに見ていた雪ちゃんにブロッコリーの芯は食べられる事を告げると目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。
いや、普通に食べるでしょ?もしかしてみんな食べないの?やだ、私貧乏性なの?
ブロッコリーは軽く茹でて水気を切ったら微塵切りにしたニンニクと鷹の爪で香りを出してアーリオオーリオ風に。
味付けはシンプルに塩のみ。
「どう?」
「めちゃくちゃシンプルだけど美味しい!」
「志穂ちゃん以外はみんなアラサーだからさ、もうシンプルなやつの方が食べやすいよね。実際。」
そう言いながら胡瓜を洗ってまな板にセットして、斜めに薄くスライスして見せる。
雪に包丁を渡して同じ様に切ってみて?と様子を伺うが、とてもじゃないが恐ろしくて直ぐに包丁を取り上げた。
「雪ちゃんはさ、何でも真上から下に押しつけて切ろうとするから力むんだよ。前に滑らせながら押してみて。こんな風に。」
「こう?これで合ってる!?」
「うん。もうちょっと力入れても良いよ。そう、そんな感じ!後はなるべく均等に切らないと味も食感も変わるから。」
急がなくていいよって慎重に胡瓜と格闘する雪ちゃんから離れてヤンニョムだれの準備をして、時間をかけて胡瓜一本をスライスした雪ちゃんを誉めつつ、それを千切りにするやり方を教えて、焦らないで!ゆっくり!って何度も声に出しながらドキドキハラハラしながら千切りを見守る。
予定していた料理が概ね出来上がった頃には4人ともグッタリと疲れ果てていた。
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