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とある冬の日。
今日は自室のストーブを付けていても心底冷える。
課題のレポート用紙を開いた時だった、スマートフォンの通知音が鳴る。
私はそのメッセージを見るなり、急いで出掛けて行った。
薄暗い空を見上げると、木々でエナガが鳴いている。
その愛らしい音色がしばしの別れを誘っているとは思わなかった。
いつものベンチに彼女は座っていた。
彼女は私を見るなり、安堵した表情を見せた。
「どうしたの、そのスーツケース」
私はベンチの脇に置いてある、ベージュの大きな箱に注目した。
首をかしげていると、彼女はいたずらっぽく笑って説明してくれる。
「ふふふ。
フランス文学の講座を一緒に受けている人が、演劇やってて。
脚本書いてみないかって誘われたんだ」
なるほど、文学少女みたいな彼女にはお似合いだろう。
「大学はどうするの?」
「冬の間だけ向こうに行って、後はまた考えるよ。
……ちょっとだけ休んでみてもいいかなって」
少し照れながら説明する彼女に、少し笑いそうになった。
面倒くさい私と違って、夢に向かって行くのが実に彼女らしかった。
駅まで一緒に歩いている。
彼女を見送ろうと、私から声をかけた形だ。
天空から何やら降ってくる。
冷たくて。
白くて。
フワッとしていて。
……私の肩に触れては、すぐに消えていった。
隣に並んで歩く彼女に、私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「どうして、こんな私に仲良くしてくれるのさ。
同じ学部にも親友とかいるでしょう」
「うーん。
もちろん居るよ、でも君とはまるで違うんだ。
だって……」
だって、安心できるから。
それも親友という形なのだろう。
私は思わず足を止めた。
・・・
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