白く染まる街で、私は心に雪化粧をする

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春はシジュウカラ、冬はエナガ。 彼女の好きなものだ。 色んなものを知っているんだな、聡明な印象のする彼女だ。 柔和な輪郭は本当に小鳥のように思える。 それを言うと、彼女は頬を膨らませて怒るだろう。 桜吹雪がふんわり舞う中で、ふたりは出会った。 風に乗って流れてくる、小さなハンカチ。 それを拾った私。 視線の先で立っていた彼女。 その小さなドラマにシジュウカラが祝福のさえずりを鳴らす。  ・・・ 彼女が大学のキャンパスを歩けば、誰もが振り返る。 緩く巻いた黒髪を簪で留める仕草。 番傘をゆっくりと開く姿。 和服を模した特注であろうロングスカート。 すっぴんの私と違い、うっすらと化粧をしている彼女。 粋ではんなりした印象がそこにはあるんだ。 彼女は学部が違うから、たまにしか会うことができない。 私がベンチで休んでいると、通りかかった彼女に声を掛けられた。 「あれ、こんな午後の時間になにしてるの」 「うーん、面倒くさくなっちゃって」 講座をすっぽかした私に、彼女は空きの時間だからと隣に腰を下ろした。 こちらを見ながらくすくすと笑っている。 眉を曲げながらも笑顔をつくる様子はさながら幼子を心配する母親だ。 私は、いつも思っていることを聞いてみた。 「君はさあ、やりたいこととかあるのかな? なんか、大学来てもなんていうか……」 「私も、まったくないよ。 でもさ、いつか見つけてみたいなって思ってるよ」 「素敵だね、なんだか華がある」 たったこれだけの会話でも安らぎを感じる。 それが彼女の魅力だ。 いつしか、このベンチがふたりだけの場所になっていた。
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