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朝陽くんはかっこいい。決して身内びいきじゃない。
線が細いけれど引き締まった体躯。切れ長の瞳は柔らかく知的で、静謐な湖を思わせる。通った鼻筋、形のいい唇、その唇から紡がれる言葉は、これ以上なく優しくて温かい。少し高めの声は、聞き取りやすくて耳にするりと入ってくる。
そんな朝陽くんに恋をして以来、私はもう何度振られているだろうか。
叔父と姪は結婚できない。
これは最大で最強の障害だけれど、それ以前に、もっと大きな問題がある。
それは、朝陽くんが決して私を恋愛の対象にしてくれないこと。朝陽くんにとっては当たり前のことかもしれないけれど、私にはそれが不服でならない。
「花乃、紹介するよ。彼女は会社で僕の仕事をサポートしてくれている人で、高梨優理さん。実はね……僕の、彼女なんだ」
一年と少し前、私はまたかと項垂れた。
もう数えるのも嫌になるほど、私は朝陽くんに振られまくっている。こんなの、法律がどうのなんていう以前の問題だ。
彼女を紹介される度、私の心に傷が増えていく。それでも、知らずにいるのは嫌だった。だから私は朝陽くんに「もし彼女ができたら、絶対に教えてね」とお願いしていた。朝陽くんは、それを律儀に守ってくれている。
「お前さ、少しは朝陽さんに気を遣えよ」
幼馴染にいつも言われる言葉。
その理由は、私が一番よくわかっている。何故なら、朝陽くんに彼女ができる度、私が二人の仲を邪魔するからだ。
邪魔をするといっても、私がやっていることはたいしたことではない。ただ、朝陽くんにべったりくっついているだけ。それが意地悪になるのかもしれないけれど、こんなものは何の障害にもならない可愛いものだと思う。
私と彼女の我慢くらべ。私は、その勝負に負けたことがない。
でも、去年紹介された高梨さんとやらは、これまでの彼女とは違う。最初に会った時から、そんな風に感じた。
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