いつか六法全書が書きかわるまで

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「私は絶対にT大に入って、法律の勉強をする。そのために、今まで勉強一筋でやってきたし、学年トップの成績だって誰にも譲らない」 「……その熱意には頭が下がるけどな」 「大和にも絶対負けないっ」 「へーへー。俺、一回も勝てたことないんですけど」 「でも! いっつもいい位置につけてるじゃん! おまけに志望大学も同じって……どこまでついてくんのよっ」  中学までは一緒でも、ある種仕方がない。私立に行かない限りは、家が近所だと学区も同じになる。しかし、高校からはそうではない。  私は、県内でもトップのバリバリの進学校である今の高校を、早くから目指していた。  大和は部活でも活躍していたし、さすがに高校は違うだろうと思っていた。それなのに、大和は私と同じ高校を志望し、合格してしまったのだ。成績がそれなりによかったことは知っていたけれど、まさかそこまでとは……。その上、大学まで同じとか、腐れ縁もここまでくると意図的なものを感じる。  でも、それを聞いても大和はのらりくらりと躱すのだろうということはわかっている。今の高校を選んだ動機を聞いた時もそうだったから。  私は勉強一筋でいつも必死だというのに、大和は部活もこなしながら成績をキープしている。昔は、勉強なんて嫌いだと言っていたくせに。だから、悔しい。絶対に負けたくない。 「どこまでついてくるのか、か。そうだな、それは花乃次第なんじゃねーの?」 「はぁ?」  大和の言葉に眉を顰める。  どうして私次第なんだろう? もしかして……。 「私が朝陽くんを諦めるまで監視するつもり? だから、高校もついてきたの!?」  私がそう言うと、大和は本気で嫌そうな顔をした。 「お前、それで成績トップとか……他のやつが知ったら死にたくなるだろうな」 「なんでよ!」 「言ってることがバカすぎる」 「失礼なっ!」 「ほんっと、朝陽さんが絡むとお前のポンコツ具合は半端ねーわ」 「ポンコツ言うな!」  そんな風に言い合っているうちに、いつの間にか家に辿り着く。  私たちの声が聞こえたのか、家の中からお母さんが出てきて、やれやれといったように肩を竦めた。 「花乃、ご飯届けたらすぐに帰ってきなさいって言ったでしょう?」 「だって、朝陽くんいなかったし」 「優理さんはいたでしょう?」 「どうしてお母さんが知ってるの?」 「朝陽に連絡したら、優理さんがいるから預けておいてほしいって」 「嫌に決まってるじゃん。私は朝陽くんに会いに行ってるのに」  しょうがないわね、とでも言いたげな顔で、お母さんは私の隣にいる大和に目線を移す。そして、申し訳なさそうに頭を下げた。 「大和くん、ごめんなさいね。いつもいつも、本当にありがとう」 「いえ」 「花乃を何とかできるのは、大和くんだけなのよ。ほんっと頼りにしてるわ!」 「任せてください」  そう言って、大和は優等生な笑みを見せた。  詐欺! と叫びたくなる。叫んだところで、お母さんは完全に大和の味方だから意味がない。だから黙っているけれど、心の中はもやもやする。  高校に入って、大和はますますリーダーシップを発揮するようになった。今や生徒会にも入っているのだから、学校でもかなり目立つ存在だ。そんなことも相まって、うちの家での大和の株はひたすら上がり続けている。またそれも気に入らなかった。 「それじゃ、俺はこれで」 「ありがとう、大和くん!」 「花乃のことで困ったら、また連絡ください」 「ありがとう!」  お母さんの瞳がうるうると輝いていた。  それに呆れ果て、私はこれ見よがしに大きな溜息をつき、家の中に入っていく。お母さんがもう一度大和に挨拶して、私の後を追いかけてくる。 「花乃、大事な話があるから、リビングにきなさい」 「……なに?」  大事な話って、なんだろう?  お母さんの顔を見ると、さっきとは打って変わり、真剣なものになっている。それに少し慄きながら、私はコクリと首を縦に振った。
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