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「ここ……」
連れてこられたのは、通っていた小学校の近くにある小さな公園だった。滑り台と砂場、鉄棒、それらの遊具の側にはベンチがある。ここは、かつて私たちもよく遊んだ場所だった。
「なんか、久しぶりだ……」
外灯に照らされた公園には、人っ子一人いない。辺りもシンと静まり返っている。
大和は私をベンチに座らせ、一人分間を空けて、自分も腰を下ろす。私の腕はまだ捕らえたままだった。
「美咲おばさんから全部聞いた」
「……そっか」
だから大和は私を探したのだろう。
私は真っ暗な空を仰ぎ、大きく息を吐き出した。
「優理さんを紹介された時から、嫌な予感はあったの。あの人、これまでの彼女と全然違って……私がいくら邪魔してもへこたれないし、逆にこっちを挑発してきたりもするし。朝陽くんの前でも平気で私に意地悪なことも言うし、私もそれに乗せられて喧嘩しちゃったり……全然飾らないの。かっこつけたりしない。朝陽くんの前でも素でいるの」
「そうだな」
「口喧嘩ばっかりしてる私たちを見て、朝陽くんはいつも笑ってるし、おまけになんか嬉しそうだし。そんな朝陽くんを見て、優理さんまで嬉しそうに笑うし」
この人から早く朝陽くんを取り戻さなきゃと、いつも焦っていた。そうしないと取り返しのつかないことになる。でも、とても敵わない。心のどこかでそう思っていた。
「朝陽くんの優理さんを見る表情が、これまでの彼女と全然違うの。優しいだけじゃなくて……すごく……想いが溢れてて……ど……して……」
大和の手が離れ、その手は私の頭の上に乗せられる。ポスン、ポスンと、ぎこちなく撫でられる。
いつもなら、その手を払いのけただろう。子ども扱いするな、なんて文句と一緒に。
でも今は、そんな気力なんてなくて。
「ずっと……好きだった」
「そうだな」
「叔父と姪が結婚できないなら、結婚できるようにしてやるって……そう思ってた」
「……そうだな」
「なのに……六法全書が書きかわっても、私の夢は叶わない」
そんなつもりはないのに、声が震え、頬に雫が伝う。顔を見られたくなくて下を向くと、頭に乗った大和の手は動きを止め、今度はくしゃくしゃと乱暴に撫で始めた。
この手には覚えがある。小さい頃、私が泣いていると、いつもこうやって大和がぶっきらぼうな仕草で慰めてくれた。それを思い出して、嫌なのに涙がどんどん溢れてくる。
「朝陽さんからも連絡をもらった。……今日、朝陽さんと優理さんで花乃に話をするつもりだったらしい。でも強引に俺が連れ戻しに来たから……悪かったな」
そうか。あの二人から話してくれるつもりだったのか。
──結婚を決めたことを。
「とりあえずさ、美咲おばさんと朝陽さんには連絡入れておくぞ。めちゃくちゃ心配してたからな」
「……うん」
大和は片手で器用にスマホを操作し、二人に私を見つけたことを報告する。その間もずっと、もう片方の手は私の頭を撫でていた。
私の髪はもうぐしゃぐしゃだ。顔だって涙でぐしゃぐしゃ。こんな姿、誰にも見せたくない。特に、朝陽くんには絶対に見られたくない。
「花乃はしっかり者で、自分の夢に向かって一生懸命努力する、僕の自慢の姪っ子だよ」
「……」
「朝陽くんはいつもそう言ってくれた。だから、私はずっとそんな自分でいようと思ったし、もっと頑張ろうって思ってた。でも、本当に願っていたのは……僕の自慢の彼女だよって、言ってもらえることだった」
あぁ、また涙がボタボタと落ちていく。
どうしよう、止まらない。届かなかった想いが宙に浮いたまま、行き場所がない。
「それなのに、ひどいよね。結婚式場とかなら、そんなにすぐに予約もできないし、もっと先になるから心の準備もできるだろうけど……レストランウェディングで身内だけの式だなんて。しかも、一ヶ月後でしょ。もっと早く言ってくれないと、とても行けないじゃん」
たった一ヶ月なんて無理だ。足りない。そんな短い期間で、思い切ることなんてできるわけがない。幸せそうな二人を見て、冷静にいられる自信なんてないし、祝福なんてできそうもない。
それなら、出席しない?
「でも! 朝陽くんが幸せになることを祝福できないのは嫌、嫌なの!」
私は小さく唸り声をあげる。辛くて、苦しくて、この想いをどうにかしたくて必死にもがく。
朝陽くんが、いつか誰かのものになってしまうこと。
私は心のどこかできっとわかっていた。でもそれを認めることが怖くて、目を背けていた。覚悟しなくちゃいけないこともわかっていたはずなのに、それをずっと後回しにしていたのだ。
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