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「僕も花乃が好きだよ」
その言葉で大喜びしていたのは、小学生くらいまでだったろうか。少なくとも、中学に上がる頃には素直に喜べなくなっていた。
これはたぶん、私の気持ちが変わってしまったから。
「朝陽くん、大好き!」
小さい頃からの口癖だった。
朝陽くんが好き。
意地悪な男の子におもちゃを取られて泣いた時も、仲良しの女の子と喧嘩して落ち込んでいた時も、友だちがバイオリンを習っていて、私も習いたいとお母さんに言ったのにダメだと言われて悔しかった時も、
「大丈夫だよ、花乃」
そう言って、いつも頭を撫でてくれた。
好き。朝陽くんが大好きなのだ。そしてその気持ちは、いつしか恋としての「好き」に変わった。だから私は、朝陽くんの「好き」を純粋に喜べなくなってしまった。
だって、朝陽くんの「好き」は、私の「好き」とは違うから。
この恋は前途多難だ。なにより、最大級ともいえる障害がある。それは──。
「花乃、叔父と姪は結婚できないんだよ」
私がまだ小学校の二年か三年生くらいだった頃、将来の夢は朝陽くんのお嫁さんになることだと言った時、朝陽くんは、それはそれは言いづらそうに私にそう告げた。
この世に生を受けて、まだ十年にも満たないというのに、私は絶望というものを思い知らされた。それでも、この恋を諦めることなんてできなかった。
現在の私、榛名花乃──十七歳。私の恋焦がれる男性、遠坂朝陽──三十七歳。
私たちの関係は、姪と叔父。
例え私たちが愛し合っていたとしても、法律上、結婚はできない。
それでも。
ねぇ、朝陽くん。私は本気だから。
叔父と姪だからなんて、そんなことは関係ない。年齢差が二十もあるとか、そんなのも関係ないの。
だから、私をちゃんと見てほしい。姪としてじゃなく、妹としてじゃなく、ただの一人の女性として。
叔父と姪は結婚できない? なら、その法律を変えればいいだけ。
勉強して、勉強して、ひたすら勉強して、私は法律を変えられる、そういった立場を手に入れる。
だから、それまで待ってて。
朝陽くんがいくつになったって、私の気持ちは変わらない。
だからお願い。
──いつか、六法全書が書きかわるまで。
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