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出逢いは白く
初めて見た時の印象は、とにかく『白』だった。
血管が透けそうな程の白い肌が、木々から漏れる太陽に当たって眩しく輝いていた。
――一目惚れだった。
「なぁ睡人(ねむと)、お前よく飽きないよな」
「…へぇ?」
間の抜けた返事に、話しかけた恍人(みつと)は苦笑いをこぼす。
「朝からずっと、白雪のこと見てんじゃん。いい加減飽きない?」
「飽きないよ!全然!」
飽きるだなんてとんでもない。
仲間が掘り起こしてきた宝石を磨きながら、睡人はひたすらに白雪を目で追いかけている。
「しかも、なんなら出逢ってからずっと。そういうのなんて言うか知ってる?」
「…なんて言うの?」
「ス・ト・ォ・カ・ァ」
「!ち、違うよ!」
「違わねーよ!」
普段おちゃらけている恍人が真面目な顔をして言うので、睡人もどきりとしてしまう。
違う、断じてストーカーなんかじゃない。
ただ、白雪に憧れているだけなのに。
ここは森の奥深くにある、小人と呼ばれる人種が住む集落だ。あるきっかけで出会った七人の小人たちが、この集落で暮らしている。
八つの小屋があり、それぞれ一人ずつで住んでいたが(と言っても小屋はただシャワーとベッドがあるだけの簡易なものだ)、ある日そこに一人の美しい少女がやって来たのだ。
彼女は自身を『白雪姫』と名乗った。
何でも城を追われ、森に逃げ込んだが足を捻挫し、行く宛てもなく絶望しかけていたところに焚き火の煙を見つけたらしい。
小人たちは噂で聞いた事のあった『白雪姫』だと知り、大いに驚いた。そして、話し合いの結果、彼女を集落で受け入れることに決めた。
余っていた倉庫がわりの小屋を大急ぎで掃除し、白雪が暮らせるまでに整え、白雪姫と七人の小人の生活はスタートしたのである。
「でも睡人、あの約束だけは絶対破るんじゃねーぞ」
「わ、わかってるよ」
恍人が念押しするように、その人差し指を睡人の鼻に押し付けて言う。
そう、七人の小人には秘密にしなければならないことがあった。
そのせいで、この憧れを白雪に告げることが、睡人には出来ないでいる。
「ねぇ理人(りひと)、私にも何か手伝えることはない?」
一緒に暮らし始めて三日目の夜、捻挫を完治させた白雪が、そう切り出した。
小人たちのリーダー的存在である理人は、うーんと唸ったあと、
「鉱山に行くのは危ないから、睡人と一緒に宝石磨きをお願いしようかなぁ」
と言った。
やった!
心の中で睡人はガッツポーズをした。
恍人や瞋人(しんと)が胡乱な目で見てきたのには気づいていたが、仕方がない、約束は守るのだから許して欲しいと目線で訴えた。
翌日から、六人が鉱山に向かったあとの広場の木のテーブルで、睡人と白雪は宝石をひたすら磨く時間を過ごすことになった。
はじめは一目惚れだったが、白雪は話をしてみるととても優しく聡明であって、睡人は益々憧れを強くしていった。
睡人が話しかけると、白雪は腰をかがめて背の低い小人に視線を合わせてくれる。
呪いで日中とにかく眠たくなってしまう睡人を気遣って、昼寝の時間を取ってくれたりもした。
睡人はどんどん白雪に惹かれていった。
そんなある夜、睡人は滅多に見ない夢を見た。
いつもの自分の小屋とは少し違う小屋に、睡人は居た。
夢特有のふわりとした足元。少し色味の薄れた視界。
キョロキョロと見回すと、白雪が日中着ているワンピースが壁に掛けてあって、直感でここが白雪の小屋だと認識する。
え、白雪の、小屋?
白雪のことが好きすぎて、夢の中でまで会いに来てしまうだなんて。
自分に呆れたが、しかし好きな子の部屋とわかって夢の続きを見ないなんて選択肢は考えられなかった。
自分の欲望に勝てる訳もなく、睡人はそのまま奥のベッドへとそっと近づいた。
夢の中の視界は、日中の小人の時とは違う。普通の人間の時のそれだ。
シーツはゆるく上下していて、確実にそこに誰かが横たわって居るというのがわかる。
誰か?
そんなの白雪に決まっている。
そっと、近寄った。
ベッドの側まで歩み寄って、十分な高さから覗き込む。
そこには、静かな寝息を立てた白雪が、夜の闇にその肌を白く浮かび上がらせて、横たわっていた。
いっそ青白いほどの肌は、月の明かりでその色味なのだとわかる。他の色彩はぼやけているのに、彼女だけははっきりとした色を湛えていた。
睡人はじっと、その寝顔を見る。
閉ざされた薄いまぶた。長いまつ毛が影を落としている。寝息は薄く開いた唇から漏れていて、その吐息さえ愛しくて胸が苦しくなった。
――何故そんなことをしたかはわからない。いや、わからないはずはない。ただの欲望である。
睡人はその唇に、自分のそれを重ねていた。
気づいたら目の前に白雪の冷えるような白い肌があった。
唇には、ほんのりと暖かい彼女の温もりがあった。
がばり、我に返って身体を起こす。
身体の奥から熱が溢れ返ってきて、これは危ないと本能的に悟る。
悟った瞬間、目の前が暗転して――気づいたら目の前には見慣れた天井があった。
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