6.私のための小夜曲

15/17
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「そういえば、匠斗さんとカヤさんは?」  どこかで片づけでもしているのだろうと思っていたが、工房の中はずっと静かなままだ。 「二人ならもう帰ったよ。家で家族ともパーティするんだってさ」 「家族……」  家にいる母は、今何をしているだろう。真っ暗な部屋で、テレビだけがついている光景が浮かんだ。 「私も帰ろうかな。今日くらいは、楽しい気分になってほしいし」  どこかで小さなケーキでも買っていこう。私だけ楽しんでいるのは、なんだか申し訳ない気がしてきた。 「じゃあその前に、ちょっと来て」  ユキくんはごく自然に私の手を取り、奥の部屋へと足を向けた。昨日も手を引かれたけれど、まだ慣れないし慣れる日が来る気がしない。 「何かあるの?」 「見たらすぐにわかるよ」  そうだった、こういう時彼は一切説明してくれないのだ。でも、心なしかいつもより表情が浮かれている気がする。彼のことだから、貴重なピアノが手に入ったから見せたい、とかだろうか。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!