6.私のための小夜曲

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 急遽参加した飲み会は、思いのほか楽しかった。今まであまり関わりのない部署の人もいたけれど、みんな気さくで話し上手で、ずっと笑っていた気がする。今後仕事でお世話になることもあるだろうし、こんな風に交流するのも良いかもしれない。プライベートのことを聞かれて、「トッカータ」でのエピソードを話せたのも助かった。詳しいことは伏せて紹介したけれど、大きな音が鳴るピアノやネズミのせいで幽霊騒ぎになった話はみんな興味深そうに聞いてくれた。  一次会がお開きになりそのまま二次会に繰り出す面々と別れた私は、一人駅の方に向かって歩いていた。金曜日の夜はまだ始まったばかりで、飲食店はお客さんでいっぱいだ。ガラス一枚隔てた向こうにさっきまでいたはずなのに、家に帰るだけの私はもう別世界にいる気分だった。地下鉄の駅に続く階段が、ぽっかり口を開けている。 「早瀬さん!」  突然呼びかけられて、びくりと肩が震えた。振り向くと、先ほどの飲み会にいた男性社員の一人だった。弓木さんの同期で、営業部の(ほし)()さんだ。今回は彼が幹事役をやってくれて、仕切りの上手さはさすが営業部という感じだった。彼は二次会組だったはずだが、何かあったのだろうか。 「すみません、駅まで送るって言うつもりだったんですけど……もう着いちゃいますね」  走ってきたらしい彼は、息を弾ませながら言った。失礼かもしれないけれど、しゅんとした柴犬みたいで可愛い。自然と笑みがこぼれていた。 「ありがとうございます。おっしゃる通りもうすぐなので、大丈夫ですよ。二次会に参加されるなら――」 「いえ、早瀬さんと少し話せたらなと思っていたので、良ければ改札まで」  私の言葉を遮り、星野さんが言う。勢いに圧されるまま、私は頷いた。ほっとしたように、星野さんが顔を綻ばせる。 「ピアノの話、どれも面白かったです。弓木さんに早瀬さんのことを聞いてから、どんな方なのか気になっていて……。明日、もし時間があればどこか出かけませんか」 「えっと……」  脳裏に笹川さんの言葉がちらついた。これは彼女の言っていた“あわよくば”というやつだろうか。アルコールが浸み込んだ頭ではなかなか返事が思いつかない。
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