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「名前がわかったら、姉のことを話すって約束だったよね。ユキくんはどんな事が聞きたい?」
クリスマスコンサートの帰り道、彼は早く姉の話を聞きたかったのだと言った。あの時は余裕がなくて逃げてしまったけれど、思えばずいぶん失礼な態度だった。
「どうしてそんなに、苦しそうな顔をしてるの?」
まるでユキくん自身も痛みを抱えているかのように、彼の顔はつらそうに歪んでいた。同じような表情を、私もしているのだろうか。
「私は大丈夫だよ。ただ、残念だと思っただけ。ユキくんが会いたかったのは姉なのに、姉はもういなくて、私なんかじゃ代わりにも……」
何を言っているのだろう。支離滅裂だ。笑いがこみ上げてきたけれど、うまく笑えた気はしなかった。
「確かに、『彼女』とまた会えたら良いと思ってた」
ユキくんの言葉に、胸がつきりと痛む。
「でも、彼女の代わりとして早瀬さんを見ていたわけじゃない。俺が名前を見つけたかったのは、君と話すためだよ。――小夜さん」
衝撃に、地面がぐにゃりと歪んだような気がした。視線の先にはユキくんがいるはずなのに、うまくピントが合わない。黙っている私にしびれを切らしたように、ユキくんが繰り返した。
「玲奈は姉の名前で、君の本当の名前は『小夜』。そうでしょう?」
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