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「ごめんね。ずっと、嘘ついたままで。カヤさんたちにも謝らないと」
ユキくんはそっと首を振った。
「小夜さんが玲奈と名乗ってくれなければ、はっきり思い出せなかった。カヤさんも匠斗も、驚くだろうけど怒りはしないと思うよ」
そうかもしれない。でも、名前一つとはいえみんなを騙した事実は変わらない。みんな、優しく手を差し伸べてくれたのに。
「……どうして、お姉さんのふりをしようとしたの?」
ユキくんは私に、静かに問いかけた。
「私は……小夜はもう、いなくなってもいいと思ったから。玲奈と違って、私は誰にも求められないし、いてもいなくても影響がないし」
「人から求められなければ、自分じゃいられないの?」
「それは……」
鋭い言葉にたじろぎ、目を泳がせる。ユキくんの指摘はもっともで、構ってもらえないから自分はいらない存在だなんて、わがままな子供と同じだ。それでも、素直に納得できるほど大人にはなれない。
「ユキくんにはわからないよ。可愛くて誰からも好かれてピアノも上手い姉がいる、何の取り柄もない妹の気持ちなんて。自分らしくいることに何の意味があるの? 余計なことで悩むくらいなら、そんなこと考えるだけ無駄だよ」
早口でまくし立てると、顔の前に白い息が舞った。その白が消える前に、私はもう後悔していた。ユキくんは私を心配して聞いてくれたのに、思い切り跳ねのけてしまった。この手を離したくないとさっき思ったばっかりなのに、どうしてうまくいかないのだろう。それでも、決壊したダムみたいに言葉が次々溢れて止まらない。
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