6.私のための小夜曲

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 椅子に腰かけた私は、この高揚した空気を壊さない曲を弾こうと決めた。ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」。本来は管弦楽曲で、鈴の音やそりを引く馬を打つ鞭の音がにぎやかな曲だ。小学生のころ、気に入って玲奈と二人で何度も弾いた。軽快なメロディを聞くだけで、ワクワクが蘇ってくる。  弾き始めてしばらくすると、いつの間にかさっきみたいに、好き勝手な合奏が始まっていた。誰もが笑顔で、楽しそうだ。音楽はこんな風に人を楽しませるためにあるのだと、改めて実感した。  集まっている人たちを見渡しながら、まだ顔を見せないユキくんの姿を探す。工房にいるなら私に会いに来てくれるはずだから、どこかに出かけているのかもしれない。そんな風に考えるのは、さすがにうぬぼれすぎだろうか。でも今日はクリスマスだから、ちょっと浮かれるくらいは許してほしい。  曲を弾き終えると、拍手代わりのタンバリンやカスタネットが陽気に空気を揺らした。こんな時、玲奈ならきっと踊り出していただろう。  不意にドアベルが鳴り、私は笑顔のままドアの方に目をやった。私より小さい影は、夕歌ちゃんだ。どうやら一人ではないらしく、ドアを開けたまま振り返って声をかけている。続いて入ってきたのは、ユキくんだった。白くて大きな箱を抱えている。  夕歌ちゃんにお礼を言うと、彼は店内をぐるりと見渡した。ほんの一瞬、目が合う。それだけで心臓がどくりと跳ねて、演奏中より体温が上がった気がした。
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