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「ありがとうユキくん。このテーブルに置いてくれる?」
カヤさんが丸テーブルの一つを指さし、ユキくんは慎重に箱を置いた。近くにいた子供たちを呼びよせ、一緒にゆっくりと蓋を開ける。
「ケーキだ!」
「おっきい!」
食べたいと急かす子供たちを宥めるカヤさんの近くで、ユキくんと匠斗さんがテキパキ紙皿やフォークを用意している。切り分けやすいようにするためかケーキは長方形で、生クリームの上に苺がぎっしりと敷き詰められていた。匠斗さんがナイフを入れると、大人たちからも歓声が上がる。
遠巻きに様子を見ていると、夕歌ちゃんの姿が目に入った。ナパージュのかかった苺くらい目をキラキラとさせて、ケーキを見つめている。
「夕歌ちゃん」
隣に立って小声で呼びかけると、彼女はぱっと振り返り笑顔になった。
「玲奈さん! なんだか久しぶりですね」
若干の罪悪感を覚えつつ、控えめに笑顔を返す。ざわめきの中、今がチャンスだと思い口を開いた。
「私ね、あなたに伝えたいことが二つあるの――」
パーティ会場の役割を終えた工房は、少し前までの喧騒が嘘のように静かだった。いつもとそう変わらないはずなのに、ピアノたちも寂しそうに見える。
「こういうお祭りの後って、なんだかしんみりした気分になるんだよね」
ショールームを見つめながらユキくんが言う。彼も同じようなことを考えていたようで、少し驚いた。
楽しい時間はいつか終わってしまう。当たり前のことだけど、今が楽しいほど、その事実を切なく感じる時もある。毎日を笑って過ごしていた玲奈も、こんな気持ちを抱えていたのかもしれない。
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