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こてりと首を傾げるのに正吾は苦笑して指先で頬をかいた。
期間限定を誤魔化す必要はない。
「俺ももう十六やねん。今は高校生や。いずれ大学行くのにいっぱい勉強せなあかんねん。そしたら真琴に構ってる余裕なくなるんや」
「――――」
「まあ、この夏休みは暇やさかい、真琴のそばにおったるわ」
言いながら――静の渋い顔を思い出した。
膝をついて真琴と視線を合わせるとようやく真琴が表情を崩した。
「逃げ回ってもおもろないやろ? かくれんぼも飽きたやん。そんなことよりやりたいこととかないんか? 虫取りやら、花火やら夏らしいことあるやん」
「……花火……!」
何かを思い出して真琴がすっくと立ちあがる。
「花火がしたい!」と跳ね上がらんばかりにまとわりついて正吾の手を引っ張る。
「はぁ? 急に言われても買うてない。それに子供はもう寝る時間や」
言われた真琴は不満げな顔でぶっくり頬を膨らませた。それを人差し指でつついて笑う。
「せやなぁ、明日の夜やったらできるかもしれん」
「本当っ?」
「けど、さっさと寝んと明日にならへんで」
言い終わるが早いか、真琴は布団の中に潜り込んだ。
立ち上がってこんもり盛り上がった夏蒲団を振り返って苦笑する。
「約束だからね」
布団の影から目だけを覗かせて真琴が念押ししてくる。それに分かった、と片手を振って応え、襖を引き開けた。
「さっさと寝ろや」
そうとだけ言い置いて背中で襖を閉ざした。
(なんや、タダの可愛らしいガキやんか)
ちりんとどこかで風鈴が鳴った。
吹き抜けた風はほんのり雨の臭いがした。
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