天竺葵

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天竺葵

湊に初めて出会ったのは、中学の時だった。 別に同じ中学だった訳でもなく本当にただの偶然で、たまたまその時その場に居ただけ。初めて会話をしたのもその時だった。 真夜中の繁華街の少し外れ。遠くの方で聞こえる喧騒とは別に静かでけれど何処か血生臭いその場所。日課のようにそこに入り浸っていた俺等の前に湊は突然現れた。今でもその時のことははっきりと覚えている。 きちんと整えられた身なり、学ランの襟元に輝く金持ちが集まると言われる有名私立中学のピンバッジ。薄暗い路地裏に似合わない彼の持つ高貴な雰囲気に何故かゾッとした。彼の足元に転がっている男は気を失っているのかぐったりとして動かない。 俺等の仲間うちの誰かが一歩後ずさる。その拍子に落ちていた空き缶が音を立てて転がった。そこでやっと、彼は足元の男から視線をこちらに移した。ゆっくりと上げられた目線にバチッ、と目が合わさる。 灰色の瞳が、じっと俺を見つめる。光を宿さないその瞳に気がつけば口を開いていた。 「お前、名前は」 ざわ、と周りが少し動揺する。けれどそんなことどうでも良かった。目の前の男は一瞬躊躇ってそしてゆっくりと口を開いた。 「九条(くじょう)(みなと)」 聞こえた名前に気づけば口元には笑みが浮かんでいた。それを隠すこともなく言葉を紡ぐ。 「(みなと)、仲間にならねぇ?」 好奇心か、好意か、それともただ刺激が欲しかったのか。どうしてか、なんてわからねぇけど言えることはただ一つ。九条 湊と言う男がどんな人物なのか知りたくなった。 「……面白いなら、いいよ」 素っ気ない了承の返事に思わず笑ったのも、はっきり覚えてる。 「ついて来いよ」 そう言って歩き出した俺の後ろを他の仲間達と一緒に湊は黙ってついてくる。それが、俺と湊の最初の出会いだった。
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