現実逃避

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現実逃避

朝8時に家を出て、ボロい軽自動車で約2時間。海沿いの道に、違法駐車と文句を言われなさそうな場所を見つけたので車を停めて外へ出た。12月にしては暖かい日だが、車から出ると少し肌寒い。何とも言えない匂いの少し冷たい潮風が気持ちよく、深呼吸をした後、大きく伸びをした。 とにかく海が見たいと思った。面白くもない製品検査の工場で1年間働いた後、上司に文句を言って会社を辞めた。人間関係で辞めるのは3度目になる。まあ、俺の性格に問題もあるのだろうが、仕事で偉そうにするヤツが多すぎる気がする。ゆとり世代の俺には耐えられない。 ショルダーバッグの振動を感じ、スマホを取り出してネットニュースを眺める。 「小説家の年収が億か……」 俺は溜め息混じりに(つぶや)いた。人間の(さが)なのか、小説なんて読みもしないのに、儲かるという言葉に反応して長々とニュースを読んでしまった。どうやら、トップクラスの小説家の1人が年収を公開したという話のようだ。そういう俗世間から離れたいと思って遠くまで来た事を思い出し、俺はスマホをショルダーバッグにしまって、200メートル程先に見える海を眺めながら道路脇を散歩する。 20分程歩くと、ガードレールの向こうに、海へ降りられるかも知れない隙間を発見した。地元の人でも、まず通らないであろう獣道……。俺はガードレールを乗り越え、木の枝や草を掻き分けて海の傍まで降りる事にした。 恐らく200メートルも無い距離だったが、小枝を避けながら中腰で歩いたせいで10分程度要したように感じる。苦労して、ようやく海水が触れる程近くまで来たというのに、プラスチックゴミや、漁船が使用したであろうボロボロになった網、さらには流木が海を見せないぐらい漂着しており、逆に気分が悪くなった。
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