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「専務、そろそろ出発しますよ」
「待って、あと少し」
「動画の続きが気になるなら車の中でお願いします。じゃないと置いて行きますからね」
「…すぐ準備する」
今いいところなのに。と唇を尖らせながら渋々頷いた逸生さんを見て、思わず小さな溜息が漏れた。
「岬ちゃん、可愛い顔してドSなところもいいよねー。専務も満更でもなさそうだし、ふたりが並ぶとほんと絵になるわー」
私達のやり取りを、頬杖をついてニコニコしながら見ていた百合子さんは「それにしても岬ちゃんはなにしても可愛い」とうっとりとした声を出す。
そんな百合子さんを横目で見ながら「百合子もなにしても可愛いぞ」と囁くイノッチさんを見て、今日も平和なオフィスに何だかほっとした。
まぁ、私が“ドS”っていうのは訂正してもらいたいところだけど。なんなら逸生さんの方がSっ気があるし、振り回されているのはどう見たって私の方だし。
──でも、そんなところが好きなんだけど。
「そういえば、岬ちゃん達はこれからどこに行くの?」
「いま合同展示会が行われているので、そちらに。あ、そうだ専務。実は今日、付き添いの社員がいて…」
「付き添い?」
思い出したように声を掛けると、逸生さんはパソコンをシャットダウンさせながら首を傾げる。
「はい。昨年入社した営業課の子なのですが、勉強も兼ねて私達と一緒に行動したいと。いいですかね?」
「勉強…それは全然構わないけど、ちなみにその社員は男?」
「はい」
逸生さんの問い掛けに頷いたと同時、営業課の方からやって来たひとりの社員が、私達のすぐそばで足を止めた。
背が高く、20代前半というだけあってまだ肌もピチピチしているその子は、今日1日私達と行動を共にする営業課の新人社員。
そんな彼は逸生さんの方に身体を向けると、静かに口を開いた。
「専務、今日はよろしくお願いします。営業課の坂本 龍馬です」
「まって、名前強すぎじゃね?」
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