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「では、私はこれで」
「てかさ」
今度こそ立ち去ろうとする私を遮るようかのように、目の前の男が静かに口を開く。
仕方なくその場に留まれば、彼はふわりと目を細めた。
「親に愛されて幸せじゃん。友達なんか今からでも作ることは出来るし、転生なんかしなくても環境は変えられる」
「……」
「でも親は変えられないから、オネーサンは幸せ者だよ」
確かに、この人の言う通りかもしれない。
私の父は、昔は両親と仲が悪かったらしく、色々と苦労したと言っていた。今は仲が良いみたいだけれど、自分が苦労したからこそ私に愛情を注いでくれるのだと思う。
それなのに、大切に育ててきた娘が“転生したい”と言っているなんて知ったら、きっと悲しむに違いない。…ちょっと、申し訳ないことしたかも。
「そうですね。お陰で目が覚めました。とりあえず次は、もっとまともな人間のいる会社に就職したいと思います」
「うんうん、その調子」
少し不思議なカウンセリングを受け終え漸く立ち上がると、それに合わせて彼も腰を上げる。
軽く伸びをしながら、思っていたよりも長身だった男を見上げれば、綺麗な形をした目がじいっと私を見つめていた。
「…まだ何か」
「いや、ほんと綺麗な顔してんなーと思って。溺愛する親父さんの気持ち、ちょっと分かるわ」
「そこは否定しません。ちなみに笑顔はもっとヤバいですよ」
「見せて」
「無理です」
「何なんだよ」
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