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10.ライバル
俺の友人は初恋を拗らせている。
「…逸、一旦座れば」
「無理」
腕を組み、落ち着かない様子で窓の外をじっと見つめている俺の友人は、どうやら初恋の相手である秘書が帰ってくるのを待っているらしい。
常に逸の隣にいるその子は、今日は珍しくオフィスの女子メンバーとランチに出て行った。
あのクールで落ち着いている彼女を、古布鳥さんと百合子さんに預ける(?)のが不安な気持ちも分かるけど…この心配の仕方は異常だと思う。
「こんなビルの上から覗いたって、よく見えねーだろ。もうすぐ帰ってくるだろうから大人しく座って待ってれば?」
「変な男にナンパされてねえかな。てか紗良は俺がいなくても楽しくのびのびしてんだろうな…俺はこんなにも寂しいのに…はぁ」
「重症だな」
どうやら俺の声は奴の耳に届かないらしい。これ以上は埒が明かないと察した俺は、逸からそっと視線を外した。
「百合子まだかなーー」
ふとオフィス内に目を向ければ、今度はデスクに突っ伏してブツブツ独り言を呟いているイノッチが視界に入る。
この男も彼女である百合子さんを溺愛しているわけだけど、こいつもちょっと異常だ。
常々思っているけど、まじでこのオフィスは変なキャラしかいない。
「逸、喫煙所行くぞ」
未だに外に視線を向けたままの男の腕を引っ掴み、ズルズルと引きずるように出口に向かう。ここまできても「早く帰ってこないかなー」と呟いている男を見て、色々と心配になった。
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