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「紗良、どういうこと?こいつは紗良が誘ったのか?」
「そんな訳ないでしょう。今朝、営業課の課長からお願いされたんです。彼を育てたいから、展示会の見学と兼ねて専務のコミュ力を見せたいと」
「嘘だろ。だって名前が…しんど」
彼に聞こえないよう私に耳打ちしてきた逸生さんの表情は、なぜか不服そう。けれどすぐにいつもの笑顔に戻った彼は「坂本君、こちらこそよろしく」と若干棒読みになりながら言葉を紡いだ。
「坂本さん、私は秘書の岬です。今日は一日よろしくお願いします」
「……っす」
逸生さんに続いて挨拶をすれば、彼は無愛想に軽く会釈するだけだった。
気怠い雰囲気を纏う彼は、何となくクールそうな人だとは思っていたけれど、逸生さんにはきちんと挨拶をしたのに。コミュ力皆無の私からは何も学べないから、いくら美人でも興味がないということだろうか?
まぁ、営業課の課長から“ちょっと生意気な奴”とは聞いていたけれど。
年下のくせに、ツンツンしちゃって……可愛いな。私はそういうの嫌いじゃない。むしろMの部分がくすぶられて、燃えそうだわ。…て、今はそれどころじゃなくて。
「とりあえず車へ急ぎましょう。専務のせいで時間が押してます」
「坂本君、きみは助手席だからな?俺とさら…岬は後ろに乗るから」
「分かりました」
なぜか坂本さんから私を隠すように立つ逸生さんを怪訝に思いながらも、車へ急いだ。
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