10.ライバル

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「…ごめんなさい。私はその話、よく知らなくて」 「そうなんすね。秘書って何でも把握してるのかと思ってました」 さらりとそんな台詞を放った彼は、急にキョロキョロと辺りを見渡し始める。 ここは合同展示会というだけあって、たくさんの企業が集まっているからか活気が凄い。逸生さんを抜きにしても、坂本さんが学べる要素はたくさんあるのが分かる。 「坂本さん、ひとりで回ってきてもいいですよ。何かあれば連絡いただければ…」 「いいんすか?りょーかいっす」 あっさりと私のそばから離れていく彼の背中を見送り、思わず小さな溜息が漏れた。いつも逸生さんとふたりきりだからか、別の人がいるとつい気疲れしてしまうようだ。 「紗良」 どこかで休もうかと思っていた矢先、ワインの話が終わったのか、逸生さんが戻ってきた。 彼は私の目の前で足を止めると、眉をひそめながら私の周りに視線を動かす。 「あれ、りゅうまとかいう奴は?」 「坂本さんとは別行動することにしました」 「ふうん…」 こうしている内に、また逸生さんは誰かに捕まってしまうだろう。今度はどの人が逸生さんに話し掛けてくるかな、なんて呑気なことを考えていれば、突然距離を詰めてきた逸生さんが、私の耳元で口を開いた。 「紗良、今日あの男のこと、ちょっと見すぎじゃね?」 「…あの男?」 「坂本だよ。坂本りゅうま」 「坂本さんですか?そんなに見てましたかね。はぐれないように気を付けてはいましたが…」 「うん、見てた。それがなんかすげー嫌だ」 急に駄々をこねるように不貞腐れる逸生さんに、思わずきょとんとしてしまった。
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