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「紗良、名前に騙されるなよ。あいつは“りょうま”じゃなくて“りゅうま”だからな」
「?分かってますよ。その前に私は“坂本さん”とお呼びしているので、呼び間違える心配はないと思いますけど」
「そういう話をしてんじゃねーのよ」
「…さっきから何を仰っているのかよく分からないのですが」
「だから…紗良の彼氏は俺だからなってこと。浮気すんなよ?」
「しないですよ。ていうか、ここでその話をするのはやめてください。今は上司と部下です」
まるで坂本さんに嫉妬しているような発言をする逸生さんを不思議に思いつつも、どこか束縛っぽい彼の言動に、思わず心臓が跳ねる。
けれどここは色んな企業が集まる展示会の会場。周りにはライバル会社の人も多くいるため、気を引き締めなければと何とか気持ちを落ち着かせた。
「なんか、おふたりの距離近くないっすか」
そんな矢先、突如後ろから聞こえてきた声に、私と逸生さんの肩が大きく揺れた。
その声の主は、つい先ほど別れたはずの生意気人間。なぜここに?と顔を引き攣らせながら振り返れば、相変わらず気怠い空気を纏った坂本さんが、私達を見据えていた。
「さ、坂本さん。どうしたんですか。何か伝え忘れたことでも…」
「いや、やっぱせっかくなんで今日は専務達と行動したいなーって…で、おふたりは何を?もしかしておふたりの関係って…」
「バレてしまっては仕方がない。実は俺達…」
「ね、ネクタイを直していただけです。専務はすぐにネクタイを崩す癖があるので」
逸生さんの言葉を遮るように放てば、隣から鋭い視線を感じた。
でも睨みたいのは私の方だ。だって、いま絶対私達の関係をバラそうとしたから。
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