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「岬さん、服に何かついてました」
「え、うそ」
「糸くずっすね。勝手に取りましたよ」
「ありがとうございます」
肩に感じた違和感はどうやら坂本君指先だったようで、ぺこっと軽く会釈すれば坂本君は「いいえー」と気の抜けた返事を放つ。
すると「あ、おいこら勝手に触んな」と、少し離れたところから逸生さんの声が聞こえた気がしたけれど。振り返ると、もうそこに彼の姿はなかった。
「専務のコミュ力すげーけど、もっと落ち着いた人だと思ってました。なんかちょっと騒がしいっすね」
「…今日はお疲れなのかもしれません。いつも外ではもう少し落ち着いています」
逸生さんが消えていった方に視線を向けながら、坂本さんは「ふうん」とやる気のない声を出す。逸生さんがいなくなったからか、口調が砕け気味だ。
「てか岬さん、俺に敬語つかわなくていいっすよ。俺年下だし」
「いえ、年齢はそうかもしれませんが、入社した日で言うと坂本さんの方が先輩ですから」
ぴしゃりと言い切れば、坂本さんは何も言わず私を見下ろしてくる。
「…なにか」
「いや、岬さんてクールだなーと思って」
「坂本さんこそ。私達、かなりいい勝負だと思いますけど」
今のところ、坂本さんの笑顔を一度も目にしていない。何となく、彼は私と同じにおいがする。
「坂本さんは笑わないんですか」
「俺、昔から笑えないんすよね。別に楽しくないわけじゃないけど、笑うほどでもないというか。でもこの見た目のせいで冷めてるとかキツいとか言われんのがちょっと…。岬さんも言われます?」
「…そうですね。愛想がないという言葉は聞き飽きました」
「ですよね。見た目で判断されんの腹立ちません?」
「…それは、分かる気がします」
坂本さんって、何だか私を見ているみたい。
見た目で判断されたくない気持ちはよく分かる。でも実際に、私は坂本さんは無愛想で冷めた人間だと思っていた。
私もきっと、周りからはこういう風に見えているんだろうな。
「でも何が一番面倒って、ドMの女に言い寄られるとこなんすけどね」
「(うわぁ…分かる)」
どうしよう、握手したい。
私、坂本さんと気が合いそう。
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