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「逸生さんも少し疲れが出ているんじゃないですか?今日は早めに休んでくださいね」
「…紗良と一緒に寝たい」
「さすがにここでその発言はやめてください」
「…紗良はほんとドライだなあ」
そんなわけない。バレないようにしてるだけで、内心かなりドキドキしてる。逸生さんが手を握ったりするから、余計に心臓が波打ってる。
別にいつも一緒に寝てはいるけれど、好きな人に“一緒に寝たい”なんて言われて、平常心でいられる人なんているのだろうか。
逸生さんからしたら、ただ恋人らしい台詞を吐いただけなのかもしれないけれど。彼のことが好きだと気付いてしまった私からしたら、ただの拷問だ。
こういう時、顔に出ないタイプで本当によかったと思う。
「逸生さん、もうすぐマンションに着くので先に部屋でゆっくりしていてくださいね」
「…え?」
「私は坂本さんを家まで送ります。さすがに電車で帰れとは言えないし、だからと言って逸生さんの部屋に連れて入れないので」
気持ちを悟られないよう淡々と告げれば、逸生さんは眉をしかめながら「それなら俺も一緒に行くけど」と放つ。
けれど一刻も早くこの状況から抜け出したかった私は、首を横に振った。
「逸生さんも今日は少し様子がおかしいので、早く休んでほしいです。送り届けたらすぐに戻りますから」
「無理。お前とあいつをふたりきりにさたくない」
「ふたりきりじゃないですよ。運転手もいますから」
お互い一歩も引かない状態で車は停車してしまった。
窓の外を見て、マンションの前であることを確認した私は「逸生さん」と声を掛ける。けれど彼はそこから動く気配がない。
その時、突如車内に呼び出しを告げる無機質な着信音が鳴り響いた。この音は、逸生さんのスマートフォンのものだ。
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