10.ライバル

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「…電話、鳴ってますよ」 「……」 私が声を掛けると、逸生さんはポケットから渋々スマホ取り出す。そして画面に表示されている名前を見て、逸生さんは分かりやすく顔を顰めた。 「…社長からですよ。急ぎの用かも」 なかなか通話ボタンを押そうとしない彼にそう問いかけると、逸生さんは私を一瞥したあと「何で今なんだよ」と溜息混じりに零す。 けれど私は、逸生さんが仕事の電話を無視しないことを知っている。社長や副社長からの連絡は特に。 その理由は恐らく、仕事に対して中途半端な気持ちじゃないんだと、彼らに分かってほしいから。 「…ごめん、電話してくる」 「では、その間に坂本さんを送ってきますね。彼の家までそんなに遠くないはずなので、すぐに戻れると思いますから」 「…ほんとにすぐ戻れよ」 「はい、分かりました」 名残惜しそうに車から降りた逸生さんに会釈したあと、運転手に出発するよう告げれば、車はゆっくりと発進した。 窓から逸生さんの姿を確認すれば、いつもの彼と違い、真剣な表情で電話をしているのが見える。 そのギャップに思わずきゅんとしつつも、彼の熱がなくなった右手に、少し寂しさを感じた。
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