10.ライバル

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1階の角部屋。ドアの前で足を止めた坂本さんは、鞄の中に手を突っ込んで中を探る。恐らく部屋の鍵を探しているのだろうけど、意識が朦朧としているからか、なかなか見つからない。 「私が代わりに探しましょうか」 「岬さん」 「…はい?」 私の問いかけを無視した彼は、鞄の中に突っ込んでいる手をピタリと止めると、虚ろな目を私に向ける。 昼間の気怠げで無愛想な彼とは違い、とろんとした目元のせいで少し柔らかく見える。何だか、別人のよう。 「俺の事、今日初めて知りました?」 「え?いえ、パーテーションで区切られてはいますが、お顔は何度も拝見していましたし、名字も何となく覚えてましたけど」 「…そんだけ?」 「そうですね。でもインパクトのあるお名前なので、今日でばっちりフルネームをインプットしました」 「…ふうん」 さっきから彼の質問の意図が掴めないけれど、酔っ払いってきっとこんなもの。突拍子もない発言をして、明日にはきっと忘れてる。ここは適当にあしらって早く帰らないと、逸生さんに何て言われるか。 帰りが遅くなって、“お仕置き”って言われたら、それはそれでいいけど。 「鍵、見付かりました?」 「俺はずっと岬さんのこと見てましたよ」 「……え?」 「めちゃくちゃタイプだったんで。密かに見てました」 いやほんと、突拍子なさすぎじゃない? まるで告白みたいな台詞だけど、今日1日の彼の態度は、私を意識していたようには見えなかった。普通に生意気な年下の男って感じだったのに、急に何を言い出すの。
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