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四番目の愛美ちゃん
愛美ちゃんは一年生の後輩で、俺との接点は図書室だった。ツインテールの地味なメガネっ子というのが初見の印象だ。
借りた本を返しに行った時、彼女は大量の本を抱えてよろよろと歩いていた。こりゃ危ないと思っていたら案の定、俺の目の前で本をぶちまけた。
「あっ、あうぅ……」
あわててメガネを落としたみたいで、はいつくばり両手でバタバタと床を叩いている。どうやらド近眼でメガネを見失ったらしい。
見るに見かねた俺はメガネを拾いあげ、愛美ちゃんの目前に腰をすえた。愛美ちゃんは四つん這いのまますっとんきょうな顔で俺を見上げる。
「探し物、これだろ?」
俺はその顔にそっとメガネをかけてやった。愛美ちゃんの顔が紅に染まる。
「す、すいません……。恥ずかしいところを見せちゃって……」
「ふっ、この失敗は努力の結果だろ。君の頑張りは今、俺の胸に深く刻まれた」
やんわりとフォローしつつ散らかった本を寄せ集める。
「先輩、優しいんですね。え、と……」
「俺、黒沢克樹。ちなみに男にとっちゃ優しいなんて褒め言葉にならねえんだよ」
「えっ、そっ、そうなんですか? 失礼しましたっ!」
ペコペコと頭を下げる愛美ちゃん。なかなか可愛らしい妹キャラだ。
以来、俺は度々、図書室に足を運び、愛美ちゃんとお喋りをするようになった。
「かつき先輩、あたし観たい映画があるんですよ~。でも、友達と予定が合わなくて」
「そうか、じゃあ俺が一緒に観に行ってもいいけど、どうする?」
「えっ、えっ、いいんですかっ! ありがとうございます!」
会話の流れで映画を観に行くことになったので、愛美ちゃんはぼっち映画を回避できて嬉しそうだ。ふふふ、これぞ男の矜恃。
映画は村を襲った鬼に復讐をするストーリーのアニメ。ところが冒頭で恐ろしい姿の鬼が出現した瞬間、愛美ちゃんは「うーん」と泡を吹いて意識を失った。
どうやら彼女は怖いものが大の苦手らしい。アニメだからとなめたのがいけなかったのだろう。今度はもっとほのぼのした映画を観に行くことにしようと心に誓った。
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