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三番目の青葉さん
青葉さんは陸上部に所属するクラスメート。生徒会という文化系の俺とは無縁だった。
けれど雪が降った日の帰り道のこと。寒空の下、彼女はランニングをしていた。河川敷から学校に戻るところのようだったが、すれ違う時に俺を避けて派手に転んだ。凍ったマンホールのふたがスリップの原因だった。
「あいたたた……」
青葉さんは足を痛めたらしく、うずくまったまま起き上がれない。しかも、まわりには誰もいない。見ると彼女の瞳には俺が映っている。そんな状況で放っておけるはずがない。
「しょうがねぇなぁ、手ぇ貸してやるよ」
しゃがんで腕を肩にかけ、よっと合図をして立ち上がる。
「悪いね、ありがとう。でもかつき君って、意外と頼りになるんだね」
「意外は余計だ、困った時はお互い様さ。――しっかしこの寒い中、よく頑張るよな」
「春休みにはおっききな大会あるからね。全国狙ってたんだけど……はぁ、これで一歩後退かぁ。ちっくしょー!」
青葉さんは勝気な性格のようで、心底悔しそうな顔をする。支えて学校に戻りあとは陸上部員に任せた。何かお礼をするよと気を遣われたが、胸の当たる感触を味わえたので十分満足だった。救世主の役得である。
それからしばらくして、青葉さんの足が治ったころ。
「この前のお礼でさ、なにかおごるよ」
「まじか! まあ、お礼はもう貰ったようなもんっすけど」
「へ? あたし何かしたっけ?」
「あ、いや、喜んでご馳走になりまーす!」
ごく自然な成り行きで一緒に下校する。和菓子と洋菓子、どっちがいいと聞かれたので和菓子と答えたところ、お気に入りの茶屋があるという。
「おすすめはおはぎなんだよ。あたし大好物」
「へー、女子はみんなこだわりのスイーツがあるよな」
「甘いもの食べると恋愛ホルモンが出るんだって。だからお菓子は恋愛対象みたいなものなのよ」
青葉さんは俺を人目につかない路地裏に案内する。そして唐突に聞いてきた。
「ところで半殺しと皆殺し、どっちが好み?」
「え……?」
身の毛もよだつひとことに背中が凍りついた。
「だからぁ、どっちか選んでよ」
まさか、胸の感触を味わっていたのに気づいて報復するつもりだったのか。
「どっちもサイコーよねー!」
ひいい、お前がサイコだ。サイコパスだ!
――と心の中は震え上がったが、それはつぶあんかこしあんか、ということだったようだ。
誤解を明かすと彼女は腹を抱えて笑い、おはぎを噴き出しそうになった。盛り上がった結果、今度はどこに行こうかと未来への約束を交わすことになった。
以来、青葉さんとはまぁ、親しい間柄である。
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