1.

8/11
前へ
/385ページ
次へ
初対面のカイさんに答える理由はない。わたしの心の中に勝手に入って来ないで欲しい。 「……泣いて、ないです」 「泣いてるだろ」 「…泣いてない」 「泣いてるってば」 「泣いてないし、関係ないと思います!」 「関係はないけど…」 呟くようにこぼしながら、短くなった煙草をコンクリートに押し付けて消したカイさんがゆっくりと立ち上がる。それをぼんやりと眺めていると、カイさんの手がわたしに伸びて来たかと思うと、そのまま腕をぐいっと引き上げられた。 「送ってやるから来いよ」 「え?ちょっ……」 戸惑うわたしの手を引いて歩き出したカイさんに、ようやく自分はヤバい状況なんじゃないかって危機感が芽生えた。初対面のよく知らない人に手を掴まれて、どこかに連れて行かれようとしてる。 いや、送ってくれるらしいのだけれど、本当にそうなのかどうかわからない。はじめまして、なのに。そんなわたしに何故こんな風に構うのか意味がわからない。
/385ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加