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「なにしてるの?」 ふいに聞こえた声に視線を上げると、黒いコートに身を包んだ男の人が立っていた。 スラッとした細身の長身。コートのポケットに手を入れてこちらをじーっと見つめながら近付いて来て、わたしの傍で足を止めたその人の整った顔の切れ長の瞳がわたしを見下ろす。月明かりが照らしたその顔は美しい。 見たことがある気がしたけれど、誰なのかわからなくてぼんやりと見上げる。よく知る先輩たちの知り合いかもしれない。先輩たちと一緒にいるのを、溜まり場か街で見かけたのかもしれない。 不良っぽくない、紳士的な大人の男の人だった。だから、ますます分からなかった。 怖い、とは思わなかったけれど、いつか先輩が言ってたことを思い出した。 〝見た目に騙されるな〟 もしかしたら、いかにも不良って人よりこんな風に一見穏やかそうに見える人の方がヤバかったりするのかもしれない。頭では色々考えるのだけれど、独特な雰囲気を纏うその人を前にどうしても動けなかった。 「こんな時間にこんなところでなにしてるの?襲われても文句言えないよ?」 無言のまま見つめていたわたしに静かに口を開いたその人はポケットから煙草を取り出し、火を点けながらわたしの隣に腰を下ろした。 紫煙を燻らせるその人の視線がスッと動き、ソレを無意識に目で追っていたわたしを捉える。
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