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いったい誰なのだろう。まさか知り合いだろうか。もしくは、一方的にわたしのことを知ってるのだろうか。 年齢はコータさんくらいだと思う。溜まり場で会った事のあるコータさんの知り合いなら、忘れるわけがない。コータさんが高校を卒業して溜まり場に来なくなってから数年経ってるにしても、当時よく顔を出していた人なら覚えている自信はある。 けれど、どの記憶を辿ってもわたしの過去に、今、目の前にいるこの男の人はいない…………気がする。 「ねぇ、聞こえてる?」 「………」 「……なんで黙ってるの?」 「………」 「まさか、シカト?」 眉をひそめて声を低くしたその人に、ようやくハッとしたわたしはその人を見つめたまま、「すみません」と小さく呟いた。 「俺の事、わかる?」 怒っている感じはしなかった。落ち着いた口調で煙草を片手にわたしを見つめる。 〝俺の事、覚えてる?〟じゃなくて、〝俺の事、知ってる?〟でもなくて。〝俺の事、分かる?〟って聞き方だと、知り合いなのかどうか判断することが出来なかった。
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