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「大丈夫。俺はちゃんと前を向いてるから」
優しい顔をするコータさんに言葉を失う。きっと一生かかっても、わたしにコータさんの気持ちを理解することなど出来ないだろう。だから、何かを言葉にすることがどうしても出来なかった。
「―――なぁ、シオリ」
不意に呼ばれて、いつの間にか俯いていた顔をあげる。
「おまえは覚えてねーんだろうけど、救われたのは俺の方だったんだぜ?」
「え……?」
コータさんはそれ以上、何も言わなかった。その続きを話してくれることはなかった。
ただ昔を思い出すように、暫くわたしを見つめていた。
「サキコを想ってくれて、ありがとう」
目を細めて優しい顔をしたコータさんに重なるように、サキ姉の笑顔を思い出す。今でも色褪せることのない、かけがえのない記憶。サキ姉はわたしの中に生きている。
思わず溢れそうになった涙を、わたしは黙って飲み込んだ―――。
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