母校を復活させよう! 目指せ古豪復活!

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母校を復活させよう! 目指せ古豪復活!

「かー! ダメだダメだ! 今年も予選敗退だよ」 「見てらんねーな」 「困ったよね……」  ビール片手に、大人3人が昼間からテレビを見て、とぐろを巻いていた。今テレビに映っているのは、高校サッカーの予選大会の試合だ。僕たちはこの高校の卒業生でもある。僕たちが通っていた高校は、小中高一貫の教育学校で、「規律」と「献身性」が厳しい古豪として知られている。文武両道をうたい文句に、勉強もスポーツも一流学校として邁進していたが、最近の子どもには厳しすぎる校風が合わず、入学希望者が減り、偏差値は右肩下がりだ。卒業生として、こんなに嘆かわしいことはない。ただそれでも、卒業後、何十年たっても愛校心は強いし、以前のように文武両道として名を馳せていた学校に戻ってほしい気持ちはある。現代の日本教育でのしつけが衰退している中では、非常に難しいことだということはわかるのだが。 「こんな腑抜けな学生を見ているのも嫌になるな」 「だよな。OB会もあるけど、最近は機能してねーし」 「……だったらさ、僕たちで古豪復活ができるように考えてみない?」 「え?」  僕の言葉に、2人は反応する。そして、どうすれば、昔のような学校に戻るのかということを話し合った。僕たちは、今でこそそれぞれ別の職業について働いているが、学生時代は同じサッカー部員だった。そのせいか、スポーツの中でも「サッカー」に重きを置いて考える癖が染みついている。 「やっぱさ、復活させるならサッカー部からだよな」 「それは当たり前だろー」 「そうだね。僕たちが介入できるのもサッカー部ならOB会からということで、何かできそうだし……でも、そもそも、今のあの学校に足りないものって何だろう?」 「俺たちの時代にあって、今の時代にないものってことだよな?」 「それはやっぱ、あれじゃね?」  僕たちは顔を見合わせる。そして―― 「「規律と献身性と集中力」」  と、声を合わせて言った。僕たちの中にある考えや方向性は、同じということだろう。それが確認できただけでも大きい。そもそも日本サッカーが躍進したのは、戦術面という味方もあるが、「規律」と「献身性」と「集中力」によるものが大きいと考えられている。つまり、まずは弱小になってしまったサッカー部に「規律」と「献身性」と「集中力」を取り戻すことで、弱小から強豪に生まれ変わり、そこから派生して学校全体の空気を変えることができるはずだと、僕たちは考えたのだ。  「規律」で、まず行ったことは、ルールの徹底だ。今の時代、「個」を大事にするあまりに、団体でのルールを疎かにしてしまっている部分がある。時代遅れだと言われても、試合に勝つためには必要なことだってある。  「献身性」は、口で言って理解できるものではないため、言いながらも行動するしかない。例えば、A君はB君が困っていたら、助けてあげてと言って、実際に助けたとしても、それは言われたから助けただけであって、「献身」と呼べるかは難しいところだ。献身は自主性によってはじめて完成するものという見方があるため、僕たちが在学生のサッカー部員たちとかかわりを持つ中で、あの行動が「献身」だったということを、伝えていくしかないだろう。  「集中力」も、難しい課題だ。これも口でなら、どうとでも言えるが、本当に集中しているかは、本人にしかわからない。例えば、シュートをしている時に「お腹が減った。今日の晩ご飯はかつ丼がいいな」と思っていたとしても、ボールがゴールに入っていれば、周りからは集中しているように見えることもあるからだ。そのため、在学生たちが自然と集中できるように仕向けていく必要がある。  これらのことを、ただやるだけでは、今の子たちの心には響かないし、「規律」と「献身性」と「集中力」を身につけさせるのも難しい。ではどうするのかというと、現代風にするのであれば、所々に「遊び」を組み込むことが重要だ。それでバランスをとって、自然と身に着くように指導しなければいけない。  僕らはそんなことを話し合ってから、さっそく翌週にはOB会を開き、賛同する大人を増やした。そして、OB会としてサッカー部に介入したいことを、学校に伝えると、すぐにOKをもらえた。学校側も、昔のような生徒たちに戻ってほしいと本当は願っていたのかもしれない。 「よーし、こっからが本番だな!」 「今の子どもたちに、どこまで通用するか見ものだぜ!」 「きっと大丈夫だよ。僕たちはサッカーをしていた頃のように、しっかりと作戦も練ったからね!」  僕たちは、3人で円陣を組んで、サッカー部員たちを集めたグラウンドへ向かった。僕たちがサッカー部に提案したものは、昔ながらの訓練方法と現代の訓練を融合させたものだ。例えば、部活動ではゲーム性を取り入れた訓練を行い、勉強ではクイズなどを取り入れた学習だ。サッカー部の子たちには、サッカーだけではなく、この学校の本来のスローガンである「文武両道」を目指すために、通常の勉強の方も僕たちが介入することになっている。そして、ゲームを取り入れるだけではなく、AIを使用した効率性の高いトレーニングや学習方法も取り入れることにした。僕たちOB会の中に、AI開発に携わっている奴がいたという利点も使わせてもらっている。筋トレもそうだが、毎日繰り返し続けることが重要だ。だから続けられる内容にしないと意味がない。また、達成感を覚えられるように、少人数でのグループ学習やトレーニングも取り入れた。  初めの1年だけでも、効果は見られたが復活までとはいかなかった。僕たちはOB会で同士を募り、有志の資金提供を増やし、サッカー部の改革を進めた。そして、2年が過ぎた頃には、他の部活でも同じようにしてみたいというところが出てきて、他の部のOB会が発足。クラス単位よりは部活単位の方が、大人になってからはOB会を開きやすいということもあり、学校の改革は進んでいく。  そして3年目。僕たちが介入していた弱小サッカー部は、ようやく予選突破ができるようになった。もうここまでくれば、古豪は見事復活したと言ってもいいだろう。もちろん、それでも僕たちは協力し続けるが、表に立つことはない。後は先生と生徒だけで、「規律」と「献身性」と「集中力」とは何なのかを考え、邁進していけるだろう。
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