0人が本棚に入れています
本棚に追加
ジリジリと暑い夏の日
「ねえ知ってる?人類初のラブレターって4000年くらい前に書かれたんだって。」
「は?」
イライラしているわけではない。ないのだけれど、少しきつい言い方になってしまった。
よろよろと目の前の友人を見ると、私の返答なぞ1ミリも気にしていませんぞと言わんばかりの顔をしていた。
ほっ、として答える。
「そうなの。」
「らしいよ。」
会話終了。
もう少し何かないのか、と思うけど、こっちも何もないので仕方がない。
ラブレター、ラブレターねぇ……
はっとする。
そういえば、あいつとのことはどうなったんだろう。
「ねえ、吉岡にラブレターもらってたよね。返事どうするの?」
吉岡というのは友人の幼馴染のことだ。
はじめてラブレターをもらったと聞かされたときはいまどき珍しいなと思ったけど、友人はまんざらでもなさそうだった。
「ああ……」
友人が答える。
「おーけーした。」
やはりか。
「そうなんだ。」
「うん。」
再びの沈黙、かと思えたが、
「……ねえ、ちえってあいつのこと、好きだったよね?」
ちえ、千絵とは私の名前だ。
「ううん、別に?」
嘘。
私は、あいつが好きだ。
「おめでと、って吉岡に伝えておいて」
何が、おめでたいのか。
今でも、目の前の友人を少しだけにくいと思っているのに。
「おめでと」
小さくつぶやく。
やはり、しっくりこない。
「本当に?」
と友人に問われた。
「本当に、おめでとうって思ってる?」
思って無い。
でも、ここで本当のことを言って何になるっていうんだ。
「ほんとだよ!」
吉岡は目の前のこの子が好き。私は、吉岡が好き。
私が、吉岡の事が好きだと知っているのなら、断ればいいじゃん。
なんで、なんでなの。
「私さ、吉岡のこと、好きなんだ。」
友人が言った。
そんなの、今更すぎるでしょ。
私の方がきっと、ずっと前から好きだったのに。
「そうなの。」
でも、やっぱり、本当のことは言えない。
私は、吉岡の事が好き。そして、この子のことも好きだから。
「吉岡のこと、ちゃんと大切にしなよ!」
大切な人と、大切な人との関係が、少しだけ前に進んだ。
でも、私は、変わらなくていい。
「大切にするよー!」
変えないほうが、安全だし。
こんなに暑い夏も、もう少しで必ず終わる。たぶんほとんどの人がその終わりを待っているんだろうけど、今は少しそれが悲しい気がする。
最初のコメントを投稿しよう!