大切な人

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 ジリジリと暑い夏の日  「ねえ知ってる?人類初のラブレターって4000年くらい前に書かれたんだって。」  「は?」  イライラしているわけではない。ないのだけれど、少しきつい言い方になってしまった。  よろよろと目の前の友人を見ると、私の返答なぞ1ミリも気にしていませんぞと言わんばかりの顔をしていた。  ほっ、として答える。  「そうなの。」  「らしいよ。」  会話終了。  もう少し何かないのか、と思うけど、こっちも何もないので仕方がない。  ラブレター、ラブレターねぇ……  はっとする。  そういえば、あいつとのことはどうなったんだろう。  「ねえ、吉岡にラブレターもらってたよね。返事どうするの?」  吉岡というのは友人の幼馴染のことだ。  はじめてラブレターをもらったと聞かされたときはいまどき珍しいなと思ったけど、友人はまんざらでもなさそうだった。  「ああ……」  友人が答える。  「おーけーした。」  やはりか。  「そうなんだ。」  「うん。」  再びの沈黙、かと思えたが、  「……ねえ、ちえってあいつのこと、好きだったよね?」  ちえ、千絵とは私の名前だ。  「ううん、別に?」  嘘。  私は、あいつが好きだ。  「おめでと、って吉岡に伝えておいて」  何が、おめでたいのか。  今でも、目の前の友人を少しだけにくいと思っているのに。  「おめでと」  小さくつぶやく。  やはり、しっくりこない。  「本当に?」  と友人に問われた。  「本当に、おめでとうって思ってる?」  思って無い。  でも、ここで本当のことを言って何になるっていうんだ。  「ほんとだよ!」  吉岡は目の前のこの子が好き。私は、吉岡が好き。  私が、吉岡の事が好きだと知っているのなら、断ればいいじゃん。  なんで、なんでなの。  「私さ、吉岡のこと、好きなんだ。」  友人が言った。  そんなの、今更すぎるでしょ。  私の方がきっと、ずっと前から好きだったのに。  「そうなの。」  でも、やっぱり、本当のことは言えない。  私は、吉岡の事が好き。そして、この子のことも好きだから。  「吉岡のこと、ちゃんと大切にしなよ!」   大切な人と、大切な人との関係が、少しだけ前に進んだ。  でも、私は、変わらなくていい。  「大切にするよー!」  変えないほうが、安全だし。  こんなに暑い夏も、もう少しで必ず終わる。たぶんほとんどの人がその終わりを待っているんだろうけど、今は少しそれが悲しい気がする。                      
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